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2007.05.21

「西尾正 探偵小説選」Ⅰ・Ⅱ

Nisio01

年齢的な物なのか、フィクションを余り読まなくなった。
意図している訳ではなく、自然と手に取る物にフィクションが少なくなっている。
別に「物語」に倦んだ訳ではないのだが、実際の人の生き様に興味が有るし、
そう云う物に余分に感情移入出来るほど馬齢を重ねてきたと云う所かもしれない。

戦前や戦後の探偵小説を読む楽しみも、実はそんな部分が有ったりする。
勿論書かれた事件の背景や世界観、当時の世相や風俗も面白いのだが、
それ以上に今では殆ど知る人も居ないであろう作者の生涯が、
作品の背景に透けて見えて来る様な所になんとも言えぬ面白さが有るのだ。
そう云う訳で、評伝が書かれている様な有名作家はいいとして、
たった数編を残しただけで、経歴も解らない作家などに興味惹かれるし、
当時の好事家の中でのみ、その名前が知られていた様な作家などもいい。
そう云う点では今回、作品集が刊行された西尾正などはうってつけの人である。

西尾正の作品はアンソロジーに採録された作品を読んだのが始めだったと思う。
本書の巻末の解説を読むだに多分、鮎川哲也編「怪奇探偵小説集」が最初だろう。
同じく鮎川哲也の「幻の探偵作家を求めて」にも西尾の章が有るが、
掲載作家の一人として読み過ごしていた様に思う。
(余談だが、この名著も文庫化するなり手に取り易い形で再刊して欲しい物だ)
光文社文庫から出ていた「幻の探偵雑誌①「ぷろふいる」傑作選」にも、
西尾の「陳情書」が掲載されていた様なのだが余り記憶に無い。
「西尾正」と云う名前を始めて意識したのは多分、
雑誌「彷書月報」の「探偵小説の迷宮」特集を読んでからだと思う。

その中に「西尾正と単行本の無い探偵小説家」と云うページが有る。
アンソロジーに採録される事は有っても、単行本が出ていない作家は実は多い、
その中でも執筆者の記憶に残っていたのが西尾正だったと云う話であった。
「西尾正は、その余り多くない作品の総てが、異常な人間性から起こる、
怪奇と幻想の世界を書いたもので・・・」と執筆者に解説されていた。
そう云う異形な作風が執筆者の記憶に強烈に焼き付いていたのだろう。
自分もそんな部分を読んで、俄かに「西尾正」の名前を記憶したと云う次第だ。
そうする内、05年に刊行された東雅夫編の「日本怪奇小説傑作選②」に、
西尾の経歴と供に「海蛇」が採録され、興味深く読んだ。
「これは何としても他の作品を読んでみたい!」と思っていた矢先、
生誕100周年を記念する本年に論創社の「論創ミステリ叢書」から、
西尾正初の作品集が2冊に分けられて出版されたのである!これは正に快挙だ!

西尾正は「亀の子タワシ」でお馴染みな西尾商店の一族らしい。
裕福な家庭に育ち慶大卒と云うしっかりとした教育を受けていながら、
生まれながらに虚弱体質で、度々鎌倉に避暑を兼ねた療養に出掛けており、
後に鎌倉に居を移し、終戦を挟んで後、結核で四十二と云う若さで死去した。
書かれた作品の殆どが鎌倉及びその周辺を舞台にしているのはそのせいである。
それ故に他の作家に無い独自の雰囲気が流れて居る所も特徴に成っている。
創作と供に掲載されている探偵小説の評論などを読むと、
中々に舌鋒鋭く、理知的に作品を分析する理論的な部分が有るのだが、
書かれた作品はと云うと、所謂探偵小説の王道な機械的なトリック等は殆ど無く、
有ったとしても非常に牽強付会な物が多くて、そのギャップが面白い。
作品の資質を、その作家の環境に求めてしまうのはややイージーでは有るが、
病床の合間に書かれた故だろうか、人間の暗い情念が渦巻く妖しい作品が実に多い。
西尾は評論の中で「昨今の探偵小説の不振な状況を変えるのは、
やはり乱歩ではないか?」と云う様な事を述べているのだが、そう云う点も含めて、
王道の探偵小説を模索しながら結局「猟奇」にまとわり憑かれた乱歩の姿に、
己と同じ様なシンパシーを感じていたのではないかと思ったりもする。

さて肝心な作品の方であるが二巻読み通してみて感じるのは玉石混交と云うか・・・
石の方が結構多い感じな内容であった。
しかし、石ではあるけれどこう云う機会でしか読めない作品だったりもするし、
傑作選として編んでいれば其れなりに形には成ったであろうが、
西尾の作品をまとめて読める形にした所は評価すべき所だと思う。
そして内容がどうであれ「彷書月報」で大場啓志氏が書かれている様に、
「好みと評価は別事なのがファン気質」と云う所に尽きると思う。

西尾は野球が好きで、地元でもよく草野球に講じていたりしたらしいのだが、
そう云う趣味を生かした野球絡みの作品が上巻に二編収められている。
「打球棒殺人事件」と「白線の中の道化」がそれだが、
これは中々今に劣らぬ当時の野球に熱狂する市民の様が伺えて面白い。
どちらも大学野球で前者はつとに有名な「早慶戦」が舞台に成っている。
何せ当時はエンタツ・アチャコの漫才に成る位の大イベントだった訳だが、
こうして作家の筆に成る神宮の緊迫した空気は中々に新しい発見だった。
が・・・作品としては非常に腰の砕けた作品でトリックも言うべき所無しである。

他にもコントの様な作品や時代掛ったメロドラマなんかも有るのだが、
やはり白眉はアンソロジーにも取り上げられている鬼気迫る作風の、
「骸骨」「青い鴉」「海蛇」辺りに止めを刺すだろう。
憑かれた男たちの妄念が奇怪な結末を辿る「骸骨」も良いが、
生霊が映し出されるフィルム、災いの象徴の如く不気味な鴉、
静かな海辺の街で淫蕩な女を巡って剣呑な関係に陥る二人の男、
鴉の拡げた災いの翼の下で起こる惨劇が不気味な「青い鴉」が特に印象に残る。
ただ個人的に怪談話の小品とでも云う「床屋の二階」、
夢野久作を髣髴とさせる奇怪で残酷な因縁談である「線路の上」、
そして倫敦を舞台にした牧逸馬風ハードボイルドな「放浪作家の冒険」などは、
曰く言い難い味わいで非常に好きである。

続いて戦後の作品を集めた二巻を見てみると、
戦前に書かれた物と比べて、かなり理に落ちない怪奇物が増えている。
戦前の物は怪奇的な筋立てで有っても解決に探偵小説らしい結末が着いていたが、
掲載誌の関係も有るのだろうか?其の物ズバリな怪奇小説が多い。
しかしそれこそが作者の質に有っている様な気がするし、
現代的な眼で見れば中々興味深い作品は多い。
勿論、伝統的な探偵小説の味わいを持った作品も少なくない。
「跳びこんで来た男」「試肝会奇譚」「女性の敵」等がそんな所だろうか。
個人的に「試肝会奇譚」は落語調な語りと怪談実話的な味わいが楽しかった。
「怪奇作家」も「女性の敵」同様な現実が創作を模倣する風な犯罪譚なのだが、
デビュー作から作者が耽溺する「ドッペルゲンゲル」譚が効果的に使われ、
昨今のメタ・ミステリーに通じる奇怪な話が興味をそそる。
同様に垢抜けない話だが「路地の端れ」も入れ子細工形式な話が面白く、
夢の中の風景や狂人のモノローグが夢野久作風で楽しめる。
「地球交響楽」と「幻想の魔薬」は供にSF風な奇妙さが横溢する話だ。
「幻想の魔薬」はネタが馬鹿馬鹿し過ぎて別な意味でトンデモな話だが、
(これビジュアル化したら壮絶に下らなくて面白いだろうなぁ・・・)
「地球交響楽」はマッドで天才的な音楽発明家による、
森羅万象を音に変換する「完全音楽」と云う狂った発想も素晴らしいし、
最後に語り手の眼前で繰り拡げられる結末の、やるせなさも最高だと思う。

さてこの巻の中で個人的に一番興味深く読んだ作品は「墓場」である。
東雅夫氏がこの作品を「米国のパルプマガジンに掲載された作品に想を得た」
「異色な作品」と書かれていたが、確かにかなり毛色の変わった話である。
舞台が完全に異国の話で、それを語り手が聞くと云う風に話が進行するのだが、
それ故に海外の話の翻案とも読めるバタ臭さが「異色」な所以であろう。
良く有る設定では有るのだが、怪異が具体的な姿を露にしない所が面白い。
今では普通に良く使われる手法だが、日本的な因果応報話が多い西尾の著作の中で、
いきなりこの様なモダン・ホラー的な怪異が飛び出す所に驚かされる、
そう、これは恰もラヴクラフトを祖とする「クトゥルー神話」の如き話で、
素知らぬ顔でアンソロジーに加えておいても何ら違和感を感じぬ作品で有る。
その様な部分を敏感に感じ取っての、東氏の指摘なのではないかと思う。

と云う訳で、実に資料的にも素晴らしい作品集が完成した訳だが、
やはりネームバリューと云い、作品の質と云い、価格の事と云い、
気安く何も知らぬ者に薦められる様な書籍で無いのは確かである。
しかし是非とも出版社にはこのシリーズを続けて行って欲しい物だと思う。
先の「西尾正と単行本の無い探偵小説家」の中に列挙された作家の中では、
まだまだ闇に埋れた知られざる強豪達が数多く居る、
一人でも多く発掘し光をあてて欲しいものだ。

最後に個人的な要望だが、植民地時代の台湾を舞台にした探偵小説を執筆した、
人類学者・金関丈夫(林熊生)の作品集を何処かで出してくれんだろうかな・・・
日本植民地文学精選集の〔台湾編〕にまとめられているのは知っているのだが、
なにぶん現物は見掛けないし、個人で買うには高価過ぎるし・・・なのである。
多分、例の「外地探偵小説集」の台湾編辺りに再録されそうな気はするが、
これなど更に望み薄そうな作品集では有るわなぁ・・・・

Nisio02

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