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2007.06.04

「悪魔とダニエル・ジョンストン」

Daniel01


今でも思い出すが、この映画の公開当時にわざわざ渋谷くんだりまで観に出掛けた。
渋谷など特別な用事でも無い限り面倒臭くて出掛けたくない場所なのだが、
単館上映なのでしょうがない。
それに「こんなマイナーな作品俺が行かんでどうなる」みたいな、
韜晦な意識が有ったのは確かだ、だってダニエル・ジョンストンなんだし・・・
所がだ、最終上映時間の少し前に劇場に着いて唖然とした。

「この作品には整理券が必要に成りますが、本日の整理券は総て売り切れです」
「尚、その他の日の整理券も次週の週末まで売り切れております」の文字が。
驚いた!コントじゃないが二度見した。
「しょうがない指名してやるか」等と云う優位な気持ちで指名した風俗嬢が、
実は物凄く人気で手が出なかった世間知らずな小親父みたいな状態か?(^^;

そうか・・・・何時の間にかダニエル・ジョンストンはそんな知られてたのか・・・
まあ確かに日本公演まで行ったアーティストだもんな・・・
等と負け犬の遠吠え宜しく渋谷を後にした訳だが、
そんな「悪魔とダニエル・ジョンストン」がDVDに成った。

韜晦な小親父を唖然とさせるくらい日本でも人気が有るダニエルだが、
殆どの人間はその存在すら知らない事だろう。
ダニエル・ジョンストンの扱いは中々に難しい所が有るが、
当たり障りの無い言い方をすれば「ピュア」なアーティストである。
「ピュア」過ぎて警察のお世話に成ったり、精神病院に出たり入ったりしている。
彼の創る歌は「ピュア」故に、昨今の音楽に物足りなさを感じている人達に響く。
多くの有名アーティストが彼の作品を取り上げていて、
アウトサイダー・ミュージックの世界では多分最も成功した人間であろう。
今や外資系のレコ屋に行けば「D」の列にちゃんと彼の作品が並んでいるが、
かつてはその音源を手に入れる事も中々に困難な人だった。

ダニエル・ジョンストンの名前を始めて知ったのは、
多分グランジから派生したローファイ・ムーブメントの頃だったと思う。
今や一流アーティストの仲間入りしたベックや、ペイヴメントなんかと並んで、
アウトサイダー・アートの様な素晴らしいジャケを音楽誌で見掛けた。
わざと外して演奏している様なローファイ音楽は特に心に響かなかったが、
お陰で、本当に外した音楽をやっている連中が注目を浴びたのは素晴らしかった。
「ヴォーカリストが精神障害の為に政府から就労を禁じられていて、
国に手当てを貰ってバンド仲間とキャロライナー・ハウスで共同生活している」
と云う触れ込みで話題に成った「キャロライナー・レインボー」等は、
結局アート系の人達によるパフォーマンスだと云う事でネタばれしてしまったが、
派手な噂は無い物の、ダニエルは常に「本物」として語られていたものだ。
そんなダニエルの音を始めて聴いたのはカセットでリリースされていた作品が、
CDとしてまとめられ、リイッシューされ始めた頃だったろうか?
その時感じたのは「あれ?以外に普通なんだな・・・」と云う感想だった。
確かにチープな録音環境に於けるぺナペナな音質と、
ピッチが不正確で妙に震える様な声はメジャーな作品では在り得ない音像だが、
そこで歌われている唄は普通にメロディアスな楽曲で有った。

いや、別にそれがいけないとか云う訳ではない。
例えばアウトサイダー・ミュージシャンの作り出す音楽を聴いていると、
普遍的なポップスやロックに根幹が有るのは間違いない。
ただそこに何らかの、彼らなりの「違和感」と云うフックが存在する。
伝説の「シャッグス」がそのフック度100%だとすると、
伝説の「シド・バレット」がフック度50%辺りで、
ダニエル・ジョンストンはフック度が30%当たりだと言えるかもしれない。
なのでダニエルの音楽は取っ付き易い。
子供がでたらめに歌う唄が結構心地よく聴けてしまうのと似ている感じだろうか。
だとすれば誰もがノー・ギミックで子供の様に唄えばウケるかと言えば、違う。
技巧を廃した所から自然に出て来る歌を唄い続けて行けるのが彼の凄さだろう。
それ故に日本でも多くの人間に受け入れられたのだろうと考える。
ただそう云う音楽にフックを求める自分の様な人間には少々退屈に聞える。

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アウトサイダー・アートとしても素晴らしい彼のイラスト。


そんな音を作り出すダニエル・ジョンストンとは如何なる人間なのか?
その実像に迫ったのがこのドキュメンタリー「悪魔とダニエル・ジョンストン」だ。
映画を観る前に少々不安が有ったのは、日本のテレビ局が良くやる様に、
「障害者=純粋な心の人」みたいな安手の図式で作られていないか?と云う事だ。
しかしそんな心配は杞憂だった様で、実に多面的にダニエル本人が描かれていた。

とにかく全編が特筆すべきエピソードに溢れていて総てが見所だと言えるが、
やはりダニエル自身が幼い頃から記録した膨大な記録やカセットが使われていて、
その自分記録魔的な偏執的な記録の数々には唖然とさせられる。
学校に行きたがらないダニエルを叱る母親のヒステリックな声から、
ダニエルの創作のミューズ(女神)となる女性、ローリーを隠し撮りした映像、
自由の女神に落書して警察に捕まった時の警察とのやり取りまで録音されていて、
余りにも過剰な「The俺・クロニクル」の数々に普通でない物を感じる。
ただ本当に昔からの創作の数々(音楽・映像・イラスト・等々)を観て行くと、
才能のきらめきを感じさせるのは確かだし、容易に使いたい言葉ではないが、
「天才と狂人は紙一重」を地で行っている感じしてくるのは確かだ。

自分の創った音楽を積極的にメジャーに売り込みに行く様な山っ気や、
MTVに出演し有名に成りたいと願う自己顕示欲の旺盛さも、生臭くて好きな所だ。
そしてようやく掴み掛けたメジャーの梯子を前に自分を見失う所は痛々しいし、
そこからの錯乱した精神が引き起こす迷惑な事件の数々は暗澹とした気分に成る。
何だかんだ言っても、そこまで重かった訳だ、ダニエルの症状は・・・
「伝説」をネタの一つとして受け取る自分等の様な部外者は良いが、
やはりダニエルの世話をする年老いた両親や友人、マネージャーは本当に大変だ。
そんなダニエルが遠く日本にまでライブしに来たと云うのは本当に大変な事だ。
だから今のダニエルのささやかな成功を喜びたい・・・・

まあとにかく、特異な一人の人間の記録としても、
何の変哲も無い米国郊外に渦巻く、白々とした狂気の記録としても、
迷惑掛けっぱなしの巨大なティディ・ベアに翻弄される普通の人々の記録としても、
懐深い米国オルタナ・シーンの生きた記録としても、
(しかしケツ穴サーファーズのギビーは何で歯の治療中の場面だけなんだ?)
最高に面白いドキュメンタリー作品としても、文句の無い1本だ。

ダニエル・ジョンストンに興味を持った貴方は、是非彼の歌を聴いてみて欲しい。
日本で発売されているアルバムは割と最近の「音楽としてまとも」なCDばかりだが、
この前彼の名作カセット作品「Hi ,How Are You」と「Yip/Jump Music」が、
デジタル・リマスターと云う不必要以外の何者でも無い処理を経て再発された。
(大体、宅録のカセット音源をデジタル処理する意味は何処にあるんだか)
大手の外資系CD屋で入手し易いので是非そちらの方を手に取って欲しいもんです。

Daniel03

迷惑掛けっぱなしの巨大なティディ・ベア、ダニエル先生近影。

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