スキヤキ・ウェスタン・ジャンゴ
最高の「馬鹿」娯楽映画だ!
映画雑誌での紹介や、関連書籍も書店に何冊も並んでいると思うが、
出来るなら事前に余り情報を入れないで観に行って欲しい。
「スキヤキ・ウエスタンって何だよ?」とか「伊藤英明が出てる!」とか、
そう云う情報量の少いまま劇場に出掛けて行って欲しい。
そうすればテレビ・ドラマのスペシャル番組がそのまま劇場に移った様な、
お馴染みの小ネタを繰り返して笑いを取る作品とは違う、
問答無用なスケールの馬鹿なネタが釣べ打ちに襲ってくる、
映画ならではのデカイ大ネタの数々に度肝を抜かれるだろうから。
今回感心したのは画面が決して安くない、と云う所だ。
勿論バジェットの違うハリウッド映画に比べれば見劣る部分は多いが、
画面のスケール感やオープンセットの奥行きなどかなり力が入っていた。
やはり嘘は精緻な土台の上に映えるし、馬鹿はダイナミックな画面に良く似合う。
そう云う意味でも最高の舞台に娯楽の華が咲き乱れている風である。
話の骨格は「用心棒」と云うか「荒野の用心棒」そのままなのだが、
街中で対立する勢力が、何故か「源氏」と「平氏」だったりする。
一見不要な要素にも思えるが、こう云う「見立て」的な構造は、
何もキャラ性を与えられていない集団よりも、この物語への参入を容易にする。
それは「清盛」「義経」「弁慶」などの役名を持った登場人物達もそうで、
名前の背景に有るキャラと画面の中のキャラをすり合せる事で、
各々のキャラ起ちが早くなると云う利便さが有る。
しかしそれ故に源平盛衰記を知らない外人には良く解らない要素だろう。
まあ敵対勢力を「赤」と「白」に解り易く色分けした理由にも成るし、
それに合わせて英国の「薔薇戦争」の件も述べられる訳だが・・・
さてこのキャスティングなら他に何本映画撮れるんだ?と云う豪華な出演陣だが、
何はともあれこの映画の真の主役は絶対に桃井かおりで決まりだろう。
しかし何歳なんですか?と云う様な華と存在感と見事な体捌きだが、
同時に余りにもカッコ良過ぎるキャラクター設定にも痺れる。
タランティーノの「キル・ビル」に於けるオーレン・イシイの回想シーンに、
完全にオマージュ捧げた如き、アニメも使った過去シーンの演出が最高だ。
ラストの大銃撃戦に於ける緩急の付け方も桃井さんらしい演出で見事。
見事と言えば「清盛」役の佐藤浩市の野卑で矮小な演技振りも実に見事だった。
何にしろ映画は悪人が映えなくては魅力が半減な訳だが、
文字通り手下を盾にする卑怯さ、欲に憑かれた滑稽さが溢れまくりの清盛で、
ガトリング銃を片手に悪態を附く所など実に決まっている。
同様に平氏と源氏の間で上手く立ち回る保安官役の香川照之も最高だった。
小ずるく立ち回っているつもりが何だかんだと立ち行かなく成って、
終いには二重人格に成ってくる辺りから狂いっぷりに拍車が掛かってくる。
常に黒い笑いを提供しつつラストが松田優作なのが爆笑である。
そう云う最高に達者なベテラン達に囲まれて主役の若手もがんばっていた。
TVの印象でちょっと優男過ぎるかな?と云う感じだった主役の伊藤英明は、
シルエット的にもロングコートの寡黙なガンマン姿が非常にマッチしていたし、
ウエスタン・スタイルのガンファイトもかなり見事にこなしていたと思う。
「虚無な美男子」、源氏の頭領「義経」の伊勢谷友介は正にその物だ。
まあその華麗で美しく冷酷な事、銃や剣捌きの見事な事、最高に画に成っていた。
何気に英語のセリフも一番上手かった様な気がする。
対して同じ様な美男子なのに徹底的に「汚れ」な感じが安藤政信の「与一」。
キャラ設定もかなり極端なら演じる方も最高にエキセントリックに演じていた。
堺雅人の「重盛」は完全に馬鹿兄貴の「清盛」に翻弄される役回りで、
決して善人ではないが上手く立ち回れない人の良さが笑いを誘う。
ほぼゲストキャラ扱いながら小栗旬も贅沢な使い方をしている。
しかしキャスティングの真相は解らんが確かに彼は顎の辺りがタラ公に似ている。
でもってその役名の名付けられ方も最高にくだらなくて笑う。
あ~しかしこう書いてみると異常に豪華だわなぁ・・・
更にファーストシーンではビックリする様な豪華ゲストもこんにちわだ。
これには驚いたなぁ・・・何処にも書いてなかったし。
更に忘れちゃいけないのが今作のヒロイン「静」役の木村佳乃。
男どもの欲望に翻弄される汚れ役をかなり体当たりで演じてはいるのだが、
なんせ三池崇史の映画だけに、今一つ報われていない感じがしないでもない・・・
さて今回最大のビックゲストと言えば、当然タランティーノだろう。
ゲストどころか結構話の中心に喰い込んで来る重要な役を演じている。
「キル・ビル」に於ける旅客機の中の日本刀立て同様な、
箸入れ付きホルスターを装備したスキヤキ・マスター、ピリンゴがその役だが、
実に楽しそうに、全力で芝居している感じが伝わって来る良い演技だった。
しかしタラ公の「キル・ビル①」が「ハリウッド産なんちゃって任侠映画」なら、
今作は日本からの回答とでも言うべき「日本産なんちゃってマカロニ映画」な訳で、
あの遊び心が理解出来た人間なら何はさて置き、観に行くべき映画だろう。
まあ勿論、コアなマカロニのファンなら情念の足りなさを挙げるかも知れないし、
三池のディープなファンならブラックな毒が足りない事を挙げるかも知れないし、
普通のお客さんだと、濃厚過ぎて何が何だか解らないと言うかも知れないし、
石橋の「弁慶」が後半完全に「とんねるず」の石橋だったとか、
昨今の日本映画では中々見掛けない内用なだけに色々と賛否は有るだろう。
個人的には無国籍馬鹿映画と云う事で「ジパング」を思い出したりしたのだが、
あれが前半の豪快さを維持出来ずに後半失速した事を考えると、
日本のソウル・ブラザーNo1、サブ北島がこぶし廻して歌うエンディングまで、
テンション高く持って行ってくれた今作は素直に良かったと思える。
ただ、どうしても最後まで馴染めなかったのが「全編英語」と云うギミック。
マーケット的に吹き替えの手間が省けて売り易い、と云う言い分は解るが、
役者が台詞に込められた筈の情念を犠牲にしてまでする事だとは思えない。
肝心な場面で、明らかに台詞に意識が傾いている様なシーンが多々有ったし、
平坦な抑揚で語られる日本名と台詞の英語のイントネーションが乖離し過ぎで、
聞いていてそれが気に成ってしょうがなかった。
面白い挑戦だとは思うが思い付きの範疇を出ていない様な気がする。
興行的には苦戦しているらしい今作、
「海外でカルト化した後日本で再評価」みたいな恥ずかしい事になら無い様、
今の内からちゃんと評価しておきましょうね。
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