「陸小鳳伝奇」一気読み
猛暑から来る夏の疲れを吹き飛ばす意味で、
長い間取って置いた古龍の「陸小鳳伝奇」シリーズ三巻を一気読みした。
別に他人にはどうでもいい話だが、武侠小説の場合すぐ読まずに取り置きしている。
それはもう単純に早く読んでしまうと勿体無いからに他ならない。
中華圏では基本文献にして堂々ロングセラーを続ける武侠小説だが、
残念ながら日本では普及したとは言い難い状況だ。
武侠小説の御三家の内、有り難い事に金庸に関しては全作品が翻訳されたが、
古龍に関しては小学館文庫で三作品が文庫化され直に絶版状態。
その後、知らない所でノヴェルの形で何冊か刊行されたらしいのだがこれも絶版。
角川から「多情剣客無情剣」が発売されてその後は音沙汰なし。
梁羽生に関しては映画に付随して「七剣下天山」が文庫に成ったくらいである。
「三国志」に関してはビジネスマン向けからヲタク向けの物まで、
「エエ加減にせいよ」と云うぐらい関連した本が出たり使われたりしているが、
痛快さと面白さで云えば遙に凌ぐ武侠小説は無視されっ放しである。
そんな所で久し振りに早稲田出版から出たのが古龍の「陸小鳳伝奇」だった。
もうすぐに読むのが勿体無くて勿体無くて・・・・
小学館文庫で出た時には「楚留香伝奇」「辺城浪子」と供に出た「陸小鳳」だが、
始めて読む古龍にワクワクした華やかな「楚留香伝奇」と、
正しく殺伐とした魁の世界が展開される、かなり好きな「辺城浪子」に比べて、
少々印象が薄かった様な所が有ったのだが、
今回立て続けに「陸小鳳伝奇」を読んでみてそう云う印象は完全に払拭された。
いやぁああああああ本当に面白い!正しく「一読巻を置くに能わず」と云う感じだ。
全く持って伊達に金庸と並んでその名を君臨させて訳では無い素晴らしさである。
武侠小説独特の話の展開の面白さも当然あるが、
古龍場合はやはり異常にキャラの起った連中が織り成す人間関係の面白さだろう。
冒頭から惜しげも無く江湖の奇人たちが入れ替わり立ち代り現れて来る。
主役の陸小鳳は「四本眉毛」と云う異名をとる江湖の遊侠児である。
四本眉毛と云うのは眉毛の他に似た様な口髭を生やしている所から来ている。
決して楚留香の様に美男子では無いが、子供がそのまま大人に成った様な、
輝く様な瞳を持った、誰からも愛される「イイ男」である。
その素性は明かされる事は無く、身に付けた絶技も何処で修行したのか不明だ。
当代一の軽功の持ち主で、「霊犀一指」と呼ばれる天下無双の技を持つ。
この陸小鳳の技がどんな必殺の剣技でも2本の指で挟み取れると云う奇妙な技で、
所謂必殺の技でなく、飽くまで防御の為の技と云う所が面白い。
彼は江湖の無情さを身を持って知る、酸いも甘いも噛分けた男で有るが、
無駄に人が死ぬ事は無いと信じる善人であり、それが技にも表れている風である。
故に旺盛な好奇心で突っ込んだ首が、人との関りの中で常に廻らなくなる。
それでもそれが自分の性分とばかりに金にも成らない厄介事に関る毎日だ。
そんな陸小鳳の周りを取り巻くのが個性豊かで熱い絆で結ばれた仲間達。
「花満楼」は盲目でありながら超絶的な技を身に付けた美青年。
元々江南の名家の子息なのだが何故か江湖での自由な暮らしを送っている。
人を疑わないある種達観した善人であり、偽悪的な陸小鳳とのやり取りが楽しい。
対して頼る物は己の剣だけと云う、剣の勝負こそが己の生きる道と知る、
剣の為なら陸小鳳とも闘う、当代無双の剣の使い手が「西門吹雪」である。
「陸小鳳伝奇」の中で最もキレていて、しかも印象鮮やかなのが彼だろう。
真っ白な衣服に身を包み、その剣が抜かれた時はどちらかが死ぬ時だと云う、
善悪の彼岸を超えた水際立った怜悧な美丈夫はそれだけで画に成る。
「司空摘星」は並ぶ物無き泥棒の王であり、変装と軽功の達人である。
陸小鳳とは因縁浅からぬ仲で、出し抜いたり出し抜かれたりの繰り返しを続け、
彼から盗んだり助けたり、何気にヤンチャな子供同士のやり取りの様な関係である。
その他にも、怠け者の肥満漢でありながら驚くほど美人の女房を持つ、
からくり造りの天才にして陸小鳳の古くからの友人である「朱停」。
武術の腕は超一流ながら不必要なまでに厳格な性格をいつも陸小鳳にからかわれる、
色々と謎も多い江湖の極め付けの奇人「堅物和尚」等など盛り沢山だ。
と云う訳で主人公・陸小鳳の揉め事や謎な出来事には必ず首を突っ込む因果な性格、
クールな言動とハードボイルド的な態度、なのに隠せない人の良さ、
女にだらしない割に有り余る騎士道精神、強者に対する不屈の闘志、
そんな陸小鳳を助けたり出し抜いたりする仲間たちと云う設定は、
どうしても日本でお馴染みの或る作品を思い出す・・・そう「ルパン三世」だ!
義賊と云う設定的には楚留香の方が近いが、キャラ的には完全にこちらである。
花満楼とのやり取りは、何気にルパンと次元のコンビを髣髴させるし、
キレた感じの剣の達人、西門吹雪は五右衛門にピッタりだ。
設定は逆だが敵か味方か?と云う感じの司空摘星は銭形のとっつぁんで、
峰不二子の様な決まった存在は出て来ないが、毎回出て来る女性キャラは、
妙に純情な所がある割に人殺しも平気な強さを持っていて不二子的である。
だからと言ってパクったのか?と言われればそう云う事も無さそうで、
大体同じ様な様な時期(70年代初頭)に創られた作品なので、
所謂、面白い物語の黄金律が重なった、とでも云う所か?
何にしろついつい陸小鳳の声に山田康雄の声を重ねたくなってしまう・・・
さてそれでは今回読んだ「陸小鳳伝奇」三冊の内容だが、
最初に結構驚いたのが実は「陸小鳳伝奇」って連作集だったってな事。
本来有った筈のプロローグが小学館文庫版では抄訳に成っていたらしいのだ。
だからてっきり独立した作品集みたいな感じなのかと思っていたのだが、
完全に話が前巻から連続した話に成っているので驚いた。
と云うかそれによって更に「陸小鳳伝奇」への関心が増した感じだ。
第一巻「金鵬王朝」
滅亡した王朝から近臣によって略奪された王朝再興の為の財宝、
その近臣と供に行方知らずの皇太子、それらの奪回を依頼された陸小鳳。
今や江湖で一門の親玉に納まっている近臣達と渡り合う為に西門吹雪を呼び寄せ、
親友の花満楼と供に余人では不可能とも言える困難な依頼に奔走する。
行く手に塞がるは「謎」そして「美女」、降り掛かるは数知れぬ刺客の刃。
誰もが信用出来ぬ不可解な状況の中、辿り着いた事の黒幕とは・・・・?
第二巻「繍花大盗」
金塊を運ぶ行列の前に白昼堂々現れた牡丹の花を刺繍する髭面の大男、
その刺繍針で居並ぶ用心棒の眼を根こそぎメクラにし金を強奪して行った。
その男こそ今や江湖で知られた謎の盗人「繍花大盗」であった。
又しても上手い事言い包められて事件を探るハメに成った陸小鳳は、
事件の鍵として赤い靴を履いた謎の女侠客「公孫大娘」を追う事に成る。
行く手に塞がるは「謎」そして「美女」、降り掛かるは数知れぬ刺客の刃。
誰もが信用出来ぬ不可解な状況の中、辿り着いた事の黒幕とは・・・・?
(・・・って全く同じやん・・・)
第三巻「決戦前後」
西門吹雪と供に剣の腕では江湖に並ぶべき物無しと称えられる剣客「葉孤城」、
御互いが至高の相手と認めるだけに闘いは避けられぬ運命であった。
しかしいざ両人の刀が抜かれたからにはどちらかが倒されねばならぬのも必定、
そんな無意味な闘いは止めさせるべきだと奔走する陸小鳳だが、
決戦を前に二人の行方はようとして知れず決戦の時は刻一刻と迫ってくる。
しかも何やらそれに乗じて都では不穏な動きがあちこちで起こり、
それぞれの思惑を秘めたまま、遂に紫禁城の屋根の上で世紀の決闘が幕を開ける。
謎の陰謀は暴かれるのか?はたして雌雄を決する二人の決着は?
話としてはやはり「決戦前後」が最高に燃える内容だが、
謎解きを含めた話としてのまとまりだと「繍花大盗」が優れている感じだ。
まあとにかく初っ端から江湖の奇人が惜しげも無く登場して来て、
それがまた惜しげも無く死んで行くハードな展開にはハラハラさせられる。
前回では至高の使い手だった人間が次の巻では呆気なく死んで行ったりで、
贅沢と言えば非常に贅沢なキャラの浪費が続く所は流石だ。
陸小鳳が導き出した謎の顛末も何時も非常に厳しい展開ばかりだし、
その辺のビターなハードボイルド具合も陸小鳳の明るさと好対照である。
とにかく巻を追う毎にキャラの起ち方が半端じゃなくなって来る陸小鳳だが、
「決戦前後」に到っては正しく決め所、決まり所の釣瓶打ち状態だ。
友を信じ友に信頼され、男も惚れる見事な男っぷりには惚れ惚れさせられる。
片や本人は遊び慣れた遊蕩児な筈なのに何かと女性に翻弄される所も面白い。
激情的ながら好いた男に純真な女キャラの数々は正しく「ツンでれ」だし、
そう云う一途な女の姿に朴念仁な陸小鳳がこれまた微笑ましくていい。
まあとにかく読み始めたら止まらなく成る問答無用の面白さなので、
是非ともこの後に続く「銀鉤賭坊」「幽霊山荘」「鳳舞九天」の三巻と、
番外編の「剣神一笑」を是非是非刊行して欲しいとお願いしたい所だ。
つうかこのまま中断させられると非常にフラストレーション溜まるんですけど・・・
| 固定リンク





コメント