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2008.03.29

「J・A・シーザー 天井桟敷音楽作品集」

Sajiki00


凄いブツが出たもんである。
「完全限定生産」と云う事なので少しでも感心の有る向は「即買い」の逸品だ。
こう云う物が発掘されていると云う経緯を全く知らなかったので、
最初にネットで発売予告を観た時には文字通りモニターの前で固まった。
今年のリ・イシュー物のランキングの上位に早くも食い込む事必至だろう。
昨年「万有引力」の音源もまとめられてCDで発売に成った事だし、
寺山修司の影に隠れて語られて来なかった異端の鬼才の姿がまた少し露に成った。

5枚組みとなるこの作品、勿論総てが貴重な音源な訳だが、
その際たる物がディスク1と2に収録された「国境巡礼歌」の完全版だろう。
「国境巡礼歌」は1973年に発売された初期のシーザー師の集大成であり、
歳を経る毎に怪しい輝きを増す日本のロックの隠れた遺産の一つなのだが、
元に成っているのは1973年2月3・4日の2日に渡って、
日本青年館で行われたシーザー師のリサイタルの実況録音である。
当然と言えば当然ながらLP化する為に多くの楽曲が捨てられ、或いは編集され、
その全貌を窺うのは僅かな片鱗からしか出来なかった。
それが今回、マスターテープより未収録だった楽曲を加え、
曲順も当時のままに並び替え、実時間通りの完全な姿で甦ったのである!
なにせラストの新高恵子の客出しのアナウンスまで収録される徹底振りなのだ。

Disc 1
1. 転生譚
2. 国境哀歌
3. エンプティ・バード変奏曲
4. 首吊りの木
5. オルフェ・ヒロシマ
6. 帝政ロシア顛落のロック
7. 民間医療術
8. 人形昇天
9. 大鳥の来る日

Disc 2
1. 狂女節
2. 東京巡礼歌
3. 長髪楚囚~あわれ自由や~
4. 英明詩篇 1
5. 越後つついし親不知
6. 母捨般若経
7. 母恋しや珊瑚礁
8. 英明詩篇 2
9. 和讃
10. 人力飛行機の為の演説草案
11. 山に上りて告げよ

以上太字の楽曲がLPにも収録された楽曲なのだが、正に半分以上が未発表である。
「国境巡礼歌」は最近紙ジャケでもリリースし直されたが、
そちらを持っている方でもこれは手元に持っていて損は無い完全版であろう。
LP版の方は軽快にドライヴする「越後つついし親不知」で幕を開けるが、
完全版は最初からドロドロとカオスが渦巻く暗黒な雰囲気で始まる。
LP版に於いては「シーザー師のリサイタル」だと云う印象が強いが、
全部を聴き通して感じるのは、これはやはり劇団「天上桟敷」の公演の一つで、
シーザー師の音楽を中心としたパフォーミングの一種と云う感じである。
映像でも残っていれば更に強くそれを感じるだろうが、
やはりこれは通常思い浮かべる様なコンサートとは完全に趣を違えた物だ。
個別に楽曲を語って行くには余りにも膨大な情報量だが、
個人的に、うめき声交じりのダウナーなラーガ・フォークと言った趣だった、
シーザー師唯一のシングル楽曲の一つである「首吊りの木」が、
躍動感の有るハードロックにアレンジされていたのには「おぉ!」と唸った。

3枚目の「青少年のための無人島入門」と5枚目の「こども狩り」は、
所謂「御詠歌ロック」に留まらない当時のシーザー師の演劇音楽の好サンプル。
勿論、随所に見えるロック的なアンサンブルやフリーキーさも見逃せない所で、
特にポップながらマザーグースの如き残酷童話な味わいの「子供狩り」が良い。
明るいメロディなのにシーザー師の操るエレクトーンは何処となく、
ダリオ・アルジェントの映画に於けるゴブリンの音楽の如く聴こえて来る。

4枚目の「走れメロス+恐怖の音楽」は個人的に非常に気に成る1枚だ。
完全版でやや薄められた感の有る「御詠歌ロック」のギラついた悪どさが、
「国境巡礼歌」以上に迫って来る瞬間がある。
「恐怖の音楽」はNHK青森放送のラジオ番組の為に収録された音源で、
シーザー師の片腕とも言うべきギターの森岳史が不在なのが残念だが、
Voに掛けられた深く澱んだエコーと云い、ガレージな感じの荒い演奏と云い、
重層的な桟敷の劇伴とも違うワイルドなアレンジがたまらない。
しかも名曲「越後つついし親不知」のVoはなんと桟敷のタリさんである。
やや演歌的なシーザー師の歌い回しと違い、パンキッシュな歌唱が最高だ。
「走れメロス」は、最近スピルバーグの監督で映画にも成った、
ミュンヘン・オリンピックのアラブ・ゲリラによる襲撃事件のまさにその時に、
オリンピック組織委員会によって企画された演劇祭で上演された作品である。
壮大な野外劇だったこの作品は劇伴も非常にロック的な感触の物だった。
「奴隷市場」は何故かハードコア黎明期の日本のパンク・バンド的な、
ノイジーな荒々しさとアングラさを髣髴させる。
と云うかその当時のバンドが少なからず影響受けている部分が有ったのか?
何気に最近紙ジャケで再発された「奇形児」辺りを思い出してしまった。
打って変わって「らまいまだ」は曲間にユーライア・ヒープを感じたし、
「国境巡礼歌」でも唄われた壮大な「大鳥の来る日」に関しては、
アレンジがピンク・フロイド風で、森岳史のよく謳うギターはギルモアの様である。

Sajiki01


発売元が紙ジャケの付録に命を掛けるディスク・ユニオンの傘下レーベルである、
「富士レーベル」なので紙ジャケ・ボックスで来るかと思いきや、
上記の写真の様に5面展開するデジパック仕様のボックスにブックレットが付き、
それが怪しい経文のプリントされたクリアケースに納まると云う凝った物だが、
個人的にはもう少し堅牢な紙製の箱の方が扱いも収納も便利だった気がする。
ボックス、ブックレットと一緒に写真に写っているプラケのCDは、
ディスク・ユニオン限定オリジナル特典のシーザーの未発表音源CDで、
「阿片戦争」から「シャーム」、「冒険者たち」から「メインテーマ」を収録。
「シャーム」はインクレディブル・ストリングス・バンドの様な、
パーカッシヴなアシッド・フォークで未発表なのが惜しい音源である。
この調子だとまだ桟敷の音源だけでももう1セットくらい発掘出来そうな感じだ。

さて出来得る事なら、次に望むべきシーザー師の発掘音源と言えば、
渋谷「ジァン・ジァン」にて定期公演されていた、
「月蝕歌」「萱草歌」と題されたコンサートの音源化である。
桟敷の劇伴とも違う小編成によるアンサンブルはシーザー師の曲の魔力を味わえる。
書籍「J・A・シーザーの世界」付属のCDにてその何曲は聴く事が出来るが、
是非とも残されたテープから良好な音源を復活させて欲しいものである。

Sajiki02


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