子年の現地電影最新作その2+α
さて前回の続きの「投名状」から御紹介。
実はこの作品、狄龍、陳観泰、姜大衛が演じたショウ・ブラザースの傑作映画、
「ブラット・ブラザース/刺馬」のリメイク作なのである。
清朝末期に太平天国の乱鎮圧に功績の有った馬新貽総督・謎の暗殺事件を巡る、
清末四大奇案の一つとして有名な事件を脚色した非常に有名な話だ。
と云う訳でいち早く話の内容を知りたい方は「刺馬」のDVDを観ると良いが、
何と言うか非常に重苦しいストーリーなのである。
己の指揮した全軍を壊滅させてしまった敗残の将である李連杰が、
失意の放浪を続ける最中、非常に良く指揮された山賊集団と知り合う。
その頭目の劉德華に気に入られ弟分の金城武と供に血の契り「投名状」を交わす。
士気を取り戻した李連杰は山賊連中を率いて皇軍に戻り戦乱に参加、
兄弟達の力も加わり不利な闘いを何度も勝ち抜けて行く。
やがて李連杰の心に兆す、出世への野心と山賊気質が抜けない仲間達への不快、
そして失意の放浪中に偶然一夜の情を交わしていた劉德華の妻への横恋慕。
それぞれの思惑が渦巻く中、血の契りを果たした仲間の崩壊が始まる・・・・
と云う様な話なのだが、この大時代的な歴史悲劇的展開が今回結構辛い。
個人的にこう云う話には「血涙振り絞る」様なクサい演技と演出が合う。
リメイク元の「刺馬」等は、血涙絞り切ってカラカラ鳴るが如き熱気がある。
翻って今回の「投名状」はどうだ?例えば主役の李連杰。
その武術に比べると少々劣っていた演技も最近はかなり達者に成ったが、
影をまとったが如き悲壮感に比べると、野心や狡猾さが余り感じられない。
多分良く話を知らない人間には、時代の趨勢に流されるだけの、
何を考えて行動しているのかさっぱり解らない人間に見えるのでは無かろうか?
劉德華は常々「劉德華を演じていない時が最高」と書いて来たが、
今回は余りにも自己を抑え過ぎで存在感が薄い、勿体無い。
金城武は最も「血の契り」を信じ「血の契り」に順ずる純粋な男だが、
重厚な武侠世界に少々「甘さ」ばかりが目立ってしまった所は残念だ。
そして一番描写的に物足りないのが「血の契り」を崩壊させる「運命の女」、
劉德華の妻でありながら李連杰との間を揺らぐ徐靜蕾の描き方だ。
何と言っても客観的に「運命の女」的な要素が殆ど感じられない事と、
心の襞の書き込み不足で、その行動原理が殆ど見えて来ない事だ。
陳可辛は女性のこう云う描写は得意だった筈なのだが、どうしたもんだか・・・・
では見せ場の一つであるスペクタクルな戦闘シーンはどうなのかと言えば、
これがスペクタクルなのだが爽快さの欠片も無い重苦しい物だ。
勿論、李連杰を使う限りは武術の冴えを見せる場面も有る事は有るのだが、
超絶的な功夫シーンやワイヤー・ワーク廃し、飽くまでリアルな戦闘に徹している。
実際の戦争はこの映画の通り爽快でも何でも無く、凄惨な物なのだろうが、
ドラマパートの重さに二乗して息詰まる様な展開が続く。
米国や日本でも過去の名作のリメイクが続いているが、成功した作品は実に少ない。
残念ながらそれは、豪華な出演者を集めたこの作品にも当てはまる事の様だ。
所謂、映画としての方向性がどちらにも絞り切れていない様な感じである。
現代的な感覚としてリアルにリメイクしたい気持ちは解るのだが、
この出演者達の名前で観客が期待するのは、やはり「娯楽」しかないと思う。
単に出資が集め易いが為のリメイクなら、もうやらなくてもいいのではなかろうか?
上の画像は現地の新聞「蘋果日報」の芸能面の記事で、
今年日本では金城武の出演作が邦画の「死神の精度」「怪盗二十面相・伝」と並び、
香港の「赤壁」と、この「投名状」の都合四本が公開される事を報じた記事だ。
諸葛孔明に扮した三国志物の「赤壁」が秋頃公開と云うのが決定している様だが、
内容の厳しさが災いしたのか「投名状」は公開時期が未定に成っている。
三国志の登場人物の名を冠した半裸の女子高生がバトる人気漫画が有る位、
日本に於ける三国志の浸透度は高いが、それに比べるとやはり「刺馬」は・・・
さて最後は少々番外編的な話だが、ようやく先日日本でも公開された、
ヴェネツィア映画祭のグランプリに輝く「ラスト・コーション 色/戒」を。
中華圏の公開は去年の中秋節の頃で、丁度現地ではDVDが発売されたばかりだった。
唱片店の目立つ所に「色/戒」のDVDが並べられていて、
特に弁当箱の様な金属製の箱に豪華写真集も入った限量特装版が目立っていて、
映画を観た今から考えれば「買っときゃ良かった」と思い返す様な次第だ。
映画を観に行く前に「150分」と云う上映時間を見て、
「内容が内容だし、寝そうだなぁ・・・」とか埒も無い事を考えていたが、
所がどっこい殆ど退屈する間も無く最後まで非常に面白く観れた。
まごう事無き文芸作品でありながら、娯楽的な要素も過不足無く配合されていて、
流石は李安(アン・リー)作品、ハリウッドでの活躍は伊達では無いと云う所か?
さてこの映画、誰が何と言おうと主役を演じた湯唯(タン・ウェイ)が総てである。
彼女の為の映画と言っても良い位、作品と役者が分ち難く結び付いている。
ほぼ無名の新人だった湯唯はこの作品で世界的な名声を手に入れた訳だが、
ここまで作品でのイメージが強烈過ぎると後々の事が心配に成るくらいだ。
湯唯は映画の中で女学生の王佳芝と有閑夫人のマイ夫人を演じている。
二役と云うのでは無く、劇中に於いて謀略の為に王佳芝がマイ夫人に扮する訳だが、
この演じ分けが実に見事と云うか、どちらも素晴らしい存在感なのだ。
故国の為に闘う決意をする女学生、素朴だが意志の強そうな王佳芝と云う役は、
多分大陸出身の女優なら大方が似合いそうな役であり、
以前本作の主役にも噂されていた章子怡などには打って付けの役だと思うが、
アンニュイな雰囲気をまとい、熱情と空虚さを併せ持つマイ夫人に関しては、
湯唯ならではの色気とよろめきが強烈に迫ってくる独特の造型である。
メイクや服装の変化は当然ある物の、常に何かを見据える様な視線の王佳芝に対し、
常に視線を漂わせ、しっとりとした憂い顔で俯くマイ夫人の演じ分けが凄い。
こう云う逸材を見付けて来た李安も凄いが、それに応えた湯唯も只者ではない。
さてこの作品と言えば大胆なセックス・シーンが話題に成っている訳だが、
日本や欧米的な基準で言えば騒ぐほどの描写では無いと云う感じだ。
よく裸目当ての作品に対して「必然性の無い性描写」等と言われるが、
それで言えばこの作品は実に「必然性の有る性描写」の作品と言えるだろう。
それは激しければ激しいほど、刹那的であれば刹那的であるほど哀しく美しい。
チャイナドレスをまとった姿ほど、湯唯の裸体は扇情的では無いが、
激しく果てた後の、高揚した泣き顔とでも云う様な表情は非常に艶っぽい。
些細な話だが、全裸のシーンで湯唯が腋毛の処理をしていない所に妙に感心した。
台湾や香港はもとより、現在では流石に大陸でも少なくなった様だが、
中国人女性は肌に剃刀を当てるのを嫌がるので脇を処理しない時期が長かった。
日本でも処理するのが普通に成ったのは戦後に成ってからだから、
戦時中の中国人女性なら当然そこは未処理な訳である。
些細な事だがこう云う所に監督と女優のこだわりを見せられて唸らされる。
セックス・シーンと言えば共演の梁朝偉も随分とがんばったものだ。
王家衛の「ブエノスアイレス」で張國榮のカマを掘るシーンを撮った後、
色々複雑な気持ちに成って、その晩は泣いたと云う話を聞いた事が有るが、
その頃に比べると実に堂々とした脱ぎっぷりと動きっぷりが見事だった。
個人的に彼は東洋一白いブリーフが似合うイイ男だと思っているので、
是非とも白いランニングにブリーフ姿が拝みたかったものである。
中華圏の演技者の中でも最高峰に位置する一人として、
今更梁朝偉の演技をどうこう云うつもりは無いが、
劇中での描き方も有ってか「冷酷な軍人」的イメージは余り感じなかった。
それよりも孤独で頑なな心がマイ夫人との逢瀬で次第にほどけて行く、
その心模様の過程が丁寧で、そこは「実に上手いなぁ」と感ずる部分だった。
それは丁度日本料理屋での逢瀬のシーンでマイ夫人が、
周[王旋](チョウ・シュアン)の「天涯歌女」を唄うシーンに結実する。
ここは梁朝偉の心が緩むシーンであり、同時にマイ夫人が王佳芝に重なるシーンだ。
御互い生のままの心が通い合う温かいシーンなのだが、
同時にその関係の崩壊をも意味する非常に見応えの有るシーンだった。
王力宏(ワン・リーホン)演じる若者は新時代の理想に燃える男な訳だが、
思想経路が如何にも古い中国の知識階級の男と云う感じで皮肉な存在である。
煮え切らない態度と青臭い理想を吐くだけで特に役に立っていなさそうな姿が、
実際に身体を汚している王佳芝と比較して目立って情けない。
そう云う迷惑な生真面目さを王力宏が瑞々しく演じている。
台湾出身の李安らしく脇役のキャストに台湾人俳優を良く使っている様で、
王力宏の仲間の唯一「女性経験」が有る男は何処かで見た様な・・・と思ってたら、
「カップルズ」や「ホールド・ユー・タイト」の柯宇綸(クー・ユールン)だった。
や~久し振りに観たががんばってるなぁ・・・
原作は近代中国を代表する作家である張愛玲の短編だ。
林青霞と張曼玉が共演した嚴浩監督の名作「レッド・ダスト」は、
その張愛玲の半生をモチーフにした映画で、今作とも共通点が多い。
実際、当時張愛玲も親日と目された男との深い関係が取り沙汰されており、
それが作品に反映された部分も有ったのでは無いかと思われる。
張愛玲と言えば読んだのは95年に日本で出た「傾城の恋」位な物なのだが、
封建的な中国の大家族の中でもがく女性の話がとにかく重くてタルくて、
その後中々読む機会を逸していたのだが、
今作の原作が文庫で発売したらしいから、久し振りに手に取ってみようかと思う。
あ~それにしてもDVD買っときゃよかったなぁ・・・・
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