「クローバーフィールド」~闇に蠢く何か
この映画を所謂「怪獣映画」として観た場合、
特に「怪獣映画」が好きな日本人としては、色々と不満が残るのは解る。
しかし純粋に映画としての面白さを考えた場合、この迫力は只者では無い。
本編が終了した後に、しばらく客のしわぶき一つ聞えなかった所に現れている。
とにかくこれは85分を全く飽きさせずに突き進むジェットコースター映画だ。
そして映画と云うメディアが、秀逸なアイデアと練られた構成と表現力で、
未だここまで行けると云う可能性を見事に示した作品だとも言える。
この映画は「ポストダイレクトシネマ(カメラを操る人間の主観視点映画)」とか、
「モキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)」等と呼ばれる性質の作品だが、
こうしてジャンル名が付いている時点で特に珍しくも無い手法である。
当然の様に引き合いに出されるのが「ブレアウィッチ・プロジェクト」であり、
主に低予算映画や実験映画などに良く使われる手法でも有る。
この映画の上手い所は、それをスケールの大きな娯楽映画に持って来た所だろう。
映画を観ながら「これは巨額の金を使って低予算風の映画を創ると云う、
発想の転換が斬新だったのか?」等と考えていたのだが、
雑誌などを読むと実は平均的な映画の半額程度で創られた作品だそうだ。
それにしてはちゃちい所が微塵も感じられない内容だったのだが、
それは本来掛かるべき金額(例えば有名スターの馬鹿高いギャラとか)を、
無名の俳優で抑え、VFXに半分以上を掛けると云う配分に拠る物らしい。
「手持ちカメラの」と云う荒い映像も予算による粗を抑える要因の1つだろう。
そんな才気溢れる仕事を見せたのが「M:I:Ⅲ」を撮ったJ・J・エイブラムス。
最近では日本でも知られたTVシリーズ「The Lost」でもお馴染みだ。
ちなみに本編に頻繁に出て来る飲料水が「The Lost」とリンクしているらしい。
そう云う点をとってもこの映画は色々と変ったリンクのされ方が成されている。
その際たる物が「YouTube」等に於けるネットとのリンクだろう。
制作側は意図的に従来の宣伝媒体であるTVや雑誌等への露出を控えて、
動画投稿サイトやネットに断片的な情報を流してファンの期待を高めた。
それらは本編を鑑賞する為に直接的な影響は無い物の、
実際の事件の如き演出で映画の中の世界観を広める為に貢献している。
例えば謎の日系企業「ダグアルト社」やその社長の「吉田ガヌ」氏。
ダグアルト社所有の海底資源採集プラントの謎の事故映像や、
謎の巨大生物の死骸らしき写真など、無数のネタがサイトに残されている。
日本では一部のマニア以外、それらを逐一チェックした人間は少ないだろうが、
本国ではそれらの情報に期待感を高められた故の興行的な成功だと言える訳で、
その辺の温度差は本国と日本ではかなり開きが有る様に思える。
まあその辺のネタはDVD化した時に特典映像としてフォローされるだろうし、
日本人にはその時にこの映画全貌が見えて来るのではないかと思う。
だったらDVD化まで待つのが吉か?と云うとそうでもない。
アトラクション・ムービーとしてやはり劇場で観なければ面白さは半減だ。
この映画「車酔い」と同じ様な症状を起す可能性が有ると注意書きが出ているが、
手持ちカメラによる不安定な映像で全編を通している訳で、
視点の定まらなさが当然の様に眩暈のような状態を引き起こす。
自分が観に行った時には途中でリタイアする様な客は見掛けなかったが、
ネットでの書き込みを観ていると実際に気持ち悪く成った客も居た様である。
出来るだけ座る席を後ろの方にするのが良いのではないかと思う。
とにかく所謂「神の視点」と言われる高みから全体を見下ろす様な映像は一切無く。
殆どが人間の目線の高さからの映像なだけに非常に新鮮な感覚である。
巨大な生物が闊歩する部分も、ビルの谷間から一部が見えるだけだし、
逃げ込んだ地下鉄構内での暗視スコープでの映像も効果的だ。
上書きする前にテープに残っていた平和な時の映像もアクセントとして上手い。
ちなみに本編の最後にコニーアイランドの観覧車でのデート映像が現れるが、
そこに空中から飛来した物が海に落下する所が映り込んでいる。
正直事前に情報を知っていなければ完全に見落としてしまう様な小ささだが、
映画のタイトルで検索すれば「Youtube」にその映像が残されている。
結局の所、それが何なのかは何処にも明らかにされていないが、
(例の怪獣が宇宙から飛来して来た、と云う仮説も有るらしい)
破壊の後の平和な日常の回想と思っていた部分にもネタが隠されていたりして、
荒い映像に対して緻密に組み立てられている構成に唸らされる。
さて肝心の怪獣の造型であるが造型自体は正直かなり微妙なモノである。
事前にネタバレ画像が幾つか流れていたが、それに比べても微妙さは変らない。
これのフィギュアも発売されるそうだが、これ欲しいか?と問われると微妙である。
だからやはり怪獣映画と云うよりは新手のディザスター映画と捉えたい感じだ。
まあとは言っても本編にはっきりと怪獣が姿を現すシーンは殆ど無く、
一瞬部分が覗いたり、全体が見えても夜の闇の中で蠢いてる姿ばかりなので、
事前にその姿を知っていたとしても最後まで怪獣の造型への感心は続く。
その辺の見せ方は実に上手いので心配御無用だ。
しかしNYのビルの谷間に蠢く姿とか、人間大の群生生物の登場とか、
微妙な概視感が、あの悪夢の「USAゴジラ」を思い出させる。
それから群生生物に関してはアレ「平成ガメラ」のレギオンだよなぁ・・・
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