桜の花の満開な妄言
午前中天気が良く風も無かったので部屋の窓を開けておいた。
しばらくして戻ってみると吹き込んだ桜の花びらで部屋が満開に成っている。
なんと典雅な・・・・・等と思う筈も無く、桜の花びらの回収に翻弄された。
「桜の花びら」と云った所で基本は吹き込んで来た塵である。
しばらく靴下の裏に花びらの残骸が附いてたり、
布団をどけたはずみに萎びた花びらが転がり出て来たりで往生した。
花の鑑賞法は色々有るだろうが、桜の如き数で勝負の花は遠方よりの観賞に限る。
枝を重なり合わせ、たわわに咲き乱れる桜は下から眺めるのが基本だし、
春霞に白く盛り上がった遠景の桜は何処か幻想的な眺めで美しい。
そう云う点で色と云い有り様と云い鑑賞法と云い、桜は雪と良く似ている。
先日の花曇の夜に玄関を出た時、不意に空からはらはらと白い物が舞ってくる。
一瞬天然にも「すわ!この季節に雪か?」と真剣に錯覚したりした。
事ほど左様に桜の花びらの「はらはら感」と雪の「はらはら感」と似ている。
ビルの谷間に孤独に咲く桜の樹を、高山の冠雪に例えるのは穿ち過ぎだとしても、
散り始めのこの時期に街角に吹き溜まる花びらは残雪の如く見える筈だ。
東京の街を歩いていると桜の樹は実に多い。
と云うか、桜の樹は非常に自己主張が強いのでよく目に附く。
見慣れ過ぎているせいかもしれないが、桜の樹は都心の風景に合っていると思う。
殺風景なモノトーンの中に現れる薄桃色の塊りは1本だけでも画になる。
が、まあしかし桜の真髄が有るとすればやはり圧倒的な質量攻撃だろう。
桜の名所と呼ばれる所に行けば解るが、とにかく見事なまでに桜だらけだ。
紅葉などは樹によって色付きの変化が有ってそこが侘び寂びなのだが、
桜に関しては頭からケツまで圧倒的にあの狂騒的な色合いの洪水である。
異国の方々には普段は大人しい日本人が何故桜の下で狂乱するのか不思議だろうが、
まあ取りあえず満開の桜の下に座ってアルコール分などを吸収してみて欲しい。
頭上には空も見えない位、十重二十重に重なり合う生命力溢れる花々、
肩先には舞い散る花びら、足元には薄っすら積った花の残骸、
この状況の中で何やら平均的な感覚を保っていられるだろうか?
アルコール分に酔わなくても花酔いと云うナチュラル・トリップは必至である。
桜の名所などに行くと桜の下に屋台などが幾つも並んでいるが、
夜に成ると屋台が灯す裸電球の灯りが薄桃色の桜を色とりどりに染める。
その自然と人工が入り混じった色彩は非常にサイケデリックな雰囲気だ。
日本人が花見と称して桜の下で集うのはその感覚を味わいたい為なのかも知れない。
初日の出ほど例年ではないが、今年も桜の下で酒を呑んだ。
今年も沢山の人達が花の下で羽目を外し狂乱していた。
こう云うアニミズム的な祝祭が残っている限り、日本はまだ大丈夫だろう。
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