巨乳はうらやましいか?/スーザン・セリグソン
「今この様な本を書いている」と作者が友人たちに話した所、
男どもは決まってこの様な事を言ってくるらしい。
「ふ~ん、で、それって写真は載ってるの?」
多分この本のタイトルだけ聞けば男は何やら楽しい物を連想するかもしれないが、
想像した様な楽しい筈の物は一つも無く、ただただ圧倒されるばかりの内容だ。
楽しい筈の二つのアレが、かくも様々な事象を内に抱いているとは!
好きなればこそ、真面目に考えたい二つのアレのあれこれについての本である。
あ~ちなみに写真は載っていません、1枚も。
本書は、Hカップと云う規格外に大きい胸を持った女性ジャーナリストによる、
おっぱいを巡る現代の様々な事象を追い掛けた現場レポートに成っている。
男の手に拠る物なら、学者から風俗ライターまで数多く残されているが、
女性の手に拠る、況してや自身も大きな胸を抱えた当事者に拠る物は珍しい。
規格外の大きさによる苦難の数々は筆者の実体験だけに非常に事細かである。
知り合い以外の世間が認識する筆者は常に「胸」である、顔では無く主体が胸だ。
胸が大きいと云うだけで降り掛かって来る数々のトラブル、
巨大過ぎる二つの塊りのせいで痛めてしまった背中、
そして何より、合うブラジャーが全然無く、合っても無粋で怖ろしく高価な事。
それでも「巨乳はうらやましい」と言えるのか?で、ある。
所がそれと反比例する様な悩みを、胸の無い女性は抱いている。
一向に胸が膨らまない女性がすがる物、それは怪しげな商品の数々だ。
食品、薬品、クリーム、運動、果ては怪しげな呪術まで数知れず有り、
その行き着く先は整形大国アメリカらしく、豊胸手術となる訳だ。
豊胸手術の現場に出向き、患者や医師に話を聞く部分は中々迫力が有る。
今日のアメリカではまるでカジュアルな雰囲気で語られる豊胸手術だが、
そのリスクは決して少なく無く、様々な問題点が有る事を報告する。
それでも手術を受ける人間は多く、中には有る程度の大きさの胸の女性も居る。
それこそはメディアにより無意識に刷り込まれた理想のスタイル、
自然界ではほぼ有り得ない、スレンダーな身体に驚くほどの巨乳と云う呪縛だ。
「自分の成りたい身体に成る」「私にはその価値が有る」と美容整形広告は謳う。
しかしそれは本当に貴方が望んでいる様な身体なのか?と著者は問う。
メディアが持ち上げ賛美する所を無意識に受け入れているだけでは無いのか?と。
勿論素人だけではなく、身体を見せる事を職業にしている女性の例も有る。
アメリカでは女優にしろモデルにしろダンサーや歌手に到るまで、
何処かしら身体にメスが入っている、などと云う話も有るが、
一種奇形的なまでに膨らませた胸を商売にしている女性たちも居る。
その中のギネス級の一人、マキシ・マウンズに会いに行く件は中々面白い。
著者はマキシに会いに、ベガスで行われているヌードダンサーの祭典に出掛けるが、
人工的に膨らませた巨大な胸の群れに著者自身の胸さえ貧乳に感じる辺りは笑う。
結局マキシには会えずじまいだったのだが、その理由と云うのが、
日本人のテレビクルーが一日中付きまとっていたから、と云うのが何とも言えぬ。
またその逆に、その大き過ぎる胸が日常生活に支障を来している女性が、
胸を小さくする為に受ける「減胸手術」の話も取り上げられている。
確かにそれで商売しようとする以外は日常生活では邪魔な存在であろう。
しかしその手術に関するリスクもまだ馬鹿に成らないと著者は指摘する。
昨今日本のエロ業界では「着エロ」なるジャンルと云うか用語が有って、
「乳首」その物を直に見せていないと云うだけでヌードではない、
と言い切るほぼヌードなジャンルが存在するが、論点は「乳首」である。
本書にもそう云う話題が載っていて、勿論そんな卑俗な話では無いのだが、
公共の場で男と同じ様に女性が上半身裸に成るのが何故いけないか抗議する、
所謂、行動するヌーディストの皆さんと行政の解釈の違いを綴った箇所だ。
(彼女達はそれを「トップレス」では無く「トップフリー」と呼ぶ)
アメリカでは公共の場でのトップレスを禁じる法律が所によってまちまちなのだが、
その場合、何処まで見せるのがOKで何処からがOUTなのか?と云う話だ。
何故「乳首」は駄目なのか?何故「乳輪」だとOKなのか?
多分に恣意的な問題であるが、同じ乳房の一部なのどうして違いがでるのか?
・・・・かくも「おっぱい」は謎に満ちている。
事ほど左様に二つの脂肪の塊である「おっぱい」の存在感は凄い。
存在としての意味でも、性的な意味でも、形而上学的な意味でも計り知れない。
例えば男性女性を問わず、服装倒錯者や性倒錯者の多くが、
乳房とは女性性を本質的に象徴する物とみなしている所にも表れている。
そして誰もが本来好きな物なのに真剣に考えられていない存在でも有る。
「たかがおっぱい」「されどおっぱい」、好き嫌い、有る無しに関らず、
貴方もこの機会に「おっぱい」について考えてみては如何か?
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