丑年の現地電影最新作
さて毎度お馴染み現地で観た現地の最新映画の話である。
しかし今年は時期的に当った様な、外れた様な少々微妙な感覚の年だった。
毎年、旧正月明けに台湾や香港に出掛けるのは、映画興行的に言って、
一年で一番金と力を入れたを作品をこの時期にぶつけてくる事が多いからだ。
(まあ近頃はそう云う傾向は薄れて来てはいるが・・・)
で、今年のそれに当るのが呉宇森の大ヒット作の後編「赤壁-決戦天下」。
これはこの時期に公開される事が予告されていたので想定通りだったのだが、
想定外だったのが、中華系の製作会社が「赤壁」に喰われるのを畏れてか、
この時期に他の作品を出して来なかった事だ。
確か前情報では、甄子丹が李小龍の師匠である詠春拳の使い手を演じた、
「葉問」が旧正月公開予定だったのだが、2月27日公開に成っていた・・・
新聞見てもやってるのが「ポニョ」とか「ナルト」とか日本のアニメだったり、
ウィル・スミスの「7つの贈り物」とか「レボリューショナリー・ロード」とか、
そんなんばっかりで、唯一単館で上映していたのが陳凱歌の「梅蘭芳」だった。
と云う訳で痛し痒しの今年の現地電影でありました・・・・
さてまず最初は日本でもGW前と云う抜群のタイミングで公開が決まっている、
「赤壁-決戦天下」日本のタイトルは「レッド・クリフPart2」(・・・つまらん)
前作は日本でも興収50億257万6400円、観客動員406万3998人と云う特大ヒットで、
当然日本で公開された中華圏映画の記録を塗り替えた作品に成った訳だが、
それに対して玄人筋から余り良い評判を聞かなかったりもした作品だった。
「三国志の戦場に美男子など要らん」と云う極端な意見とか有って、
「髭の親爺ばかりで誰が誰か解らない」と云う女の意見と真逆で笑わせて貰ったが、
大方の所は「タイトルである赤壁の戦いがまだなので判断付けかねる」、
と云う様な感じだったので、これでようやく決着が付くと云う所だろう。
しかしこういう言い方もナニだが、本当に隙の無く巧い娯楽作品だと感心する。
前作も最終決戦まで描かねえで2時間半もどうやって持たせるんだ?と思ったが、
散りばめられた山場の数々と展開の上手さで退屈する間も無い作品だった訳だが、
今回もハリウッド仕込みの圧倒的な力技でラストまで息つく間も無い1本だ。
今回は予告通りに趙薇演じる孫尚香と林志玲演じる小喬の美女の活躍が見れる。
尚香は冒頭から変装して魏の軍営に潜り込み、敵陣の編隊を偵察し、
その情報を伝書鳩(!勿論色は白)で孔明に伝達すると云う活躍振りだ。
その際に魏軍の純朴な青年兵士・孫叔材とデコボコな友情を男として育む訳だが、
その辺は出世作の「環珠格格」同様、趙薇の得意のお転婆な姫の姿であり、
殺伐とした戦場に可愛らしい彩を添えていて微笑ましい。
小喬は決戦直前に魏軍に単身乗り込む決然とした美しさが見れるのだが、
乗り込むその理由が当方の乏しい語学力のせいで良く理解出来なかったので、
いまいちその行動に関してアレコレ言えない所が心苦しい。
只それが呉と蜀の連合軍を有利に導く一因として描写されている所が面白い。
超人的な群雄の活躍のみならず、女性の活躍も勝利に貢献している訳で、
そう云う所の配慮や描き方も巧みだと感心させられる呉宇森な訳だが、
原典の野郎ファンには多分叩かれそうな部分だったりする(^^;
そして活躍と言えば前回は余り見せ場が無かった金城武演じる諸葛孔明だが、
今回は原典で云う所の「草船借箭の計」や「七星壇」など見せ場が山盛りで、
中でもハイライトは「草船借箭の計」の壮絶な場面だろう。
雨あられと降りしきる魏軍の矢の雨の中で、慌てふためく魯粛を前に、
悠然と酒を嗜む孔明の悪戯っ子の様な姿は、正に金城武らしい茶目っ気がある。
そして孔明のカリスマ性が極端に際立つ「七星壇」の部分なのだが、
残念ながら原典に有る様な三層の台に二十八宿の星と云う壇は出てこない。
呉宇森は孔明を奇門遁甲の使い手と云う様な奇矯な存在ではなく、
地勢や気候を読み、住民に話を聞く、現実的な戦略家として描きたかった様だ。
同様に原作の有名エピソードである黄蓋の「苦肉の計」もこの映画には無い。
しかし長江の畔に佇んだ孔明が風の気配を感じ、手にした扇子を振るうと、
一陣の逆風と供に呉軍の無数の天燈が風に乗って魏軍へと流れて行き、
赤壁の決戦の戦端が開かれるシーンなどは無類に燃える部分である。
知将と云う事で孔明と並び称される梁朝偉演じる周楡だが、
今回は魏軍を嵌める為に曹操側に居る奬幹(本来は奬の上にくさかんむり付き)
に偽の情報を流そうと知略を巡らすシーンが中々面白い。
そしてクライマックスは正に怒涛と云う文字が相応しい長江の決戦シーン。
普通の映画の場合公開前に結末を話してしまうのはルール違反な訳だが、
歴史的な事実として誰もが知っている赤壁の戦いの結末。
結果が解っている物をどう見せるか?と云うのも監督の手腕の一つな訳だが、
そこはもう怒涛の火薬とセットと人海戦術で有無を言わさぬ展開で見せる。
とにかく船上のシーンでは人は飛ぶは炎は燃え盛るは凄まじい勢いで、
しかしそれさえも序盤戦であり闘いは対岸の魏軍の陣営にすぐさま移る。
陣営を構えた魏軍の砦を乗り越えようと屍の山を築きながら進む呉軍、
威力を増した爆弾を抱えて中村獅童演じる甘興も決死の突撃である。
しかし軍勢では呉軍を凌駕する魏軍と曹操の勢いはなお健在だ、
自らも剣を振るって戦う呉王・張震演じる孫権も焦りは隠せない。
しかしそこに疫病の蔓延を防ぐ為に呉軍から離れていた蜀軍が陸路から参戦。
近代の戦争映画通りに兵士たちが無惨に死んで行くリアルな描写が続く中、
明らかに戦場に何人か超人が混じっているのが可笑しいが、しかし燃える。
関羽・張飛・趙雲など超人的な群雄が加わり周楡の超人振りも一気にアップ!
曹操を追い詰めて行くが、愛する妻・小喬がまだ見付からない。
そして呉軍に参戦していた尚香も戦場の只中で、友情を育んだ叔材と出会う・・・
結果は如何に?と書きたい所だが、まあ結果は皆さん御存知の通り。
その結果の解っている所に、小喬と尚香の不確定要素を混ぜ混んで、
最後の緊迫感を盛り上げている所が呉宇森の上手さだろう。
この赤壁の戦闘シーンだけでも観に行く価値は有るが、
とにかく最初に書いた様に本当に良く出来た作品なので安心してお薦め出来る。
まあ何はともあれ1作目を観に行った人は多分今作も観に行くだろうから、
日本でも興行的には手堅い所だろう。
さてもう一本は来月の7日に日本でも公開が決まっている、
陳凱歌が実在の京劇俳優に材をとった「花の生涯-梅蘭芳」。
陳凱歌で京劇と言えば張國榮が比類なき存在感を見せた「覇王別姫」を思い出すが、
あの名作に比べると残念ながら今一つとしか言えない作品に成っている。
「覇王別姫」が歴史を背景としたフィクションとして京劇俳優を描いた作品なら、
今作は歴史に翻弄される個人を描いた歴史大作で、その個人が京劇俳優だった、
と云う様な違いが有るだろうか。
「覇王別姫」は男が女を演じると云う京劇の虚構の中で、実際に相手役に恋し、
そして現実の関係の中を、虚構に生き死んで行く悲哀と美しさが見事だった訳で、
正しく自分自身を投影したかの様な張國榮の妖艶さが相まっての傑作だった。
それに比べると今作は実在した一人の京劇俳優の生涯を辿った作品であり、
勿論、近代京劇の改革者としての梅蘭芳の生涯は興味深い物では有るが、
実在の人物なだけに歴史作にしか成り様が無いだけに物足りなさが残るのだ。
物腰の柔らかい黎明は京劇役者の素の姿として申し分無いが、
実際に黎明がメイクをして舞台に立つシーンが殆ど無いのが何とも言えぬ所だ。
演劇論的な事は梅蘭芳のブレーンであった邱如白と交される部分は有るのだが、
やはり俳優の肉体を通してその実践を見てみたかった。
その代り青年時代の梅蘭芳を余少群と云う新人が演じているのだが、
実際にメイクして舞台に立つ余少群の美しさは正に圧倒的な説得力で、
張國榮の妖艶さとは違った初々しさに魅了させられる。
そう云うシーンが黎明に変わってからの後半に無いのが惜しまれる所か。
日本からも梅蘭芳に理解を持つ軍人役で安藤政信などが出演している。
まあ作品に対して期待する物の違いと云う部分は大きいとは思うが、
個人的には歴史のうねりに対する「芸」の強さや魔性をもう少し観たかった所だ。
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