水族館劇場「メランコリア~死の舞踏」
木々や草花が自然のまま、その命を剥き出して旺盛に茂り出す皐月と、
その命を鼓舞する様に温んだ雨で包み込む水無月の合間に、
今年も年中行事の如く、大観音にあの蜃気楼の様な異神の森が現われる。
そう、今年も水族館劇場の公演の季節がやって来たのだ。
なにやら今年は水族館劇場が駒込大観音に来て十年目に成ると云う事らしい。
十周年・・・奇しくも「ディケイド」か・・・・(笑)
しかし十年と云うのは境内の工事で中断していた時期を入れての十年だろうか?
と成ると始めて水族館劇場の芝居を観たのが4年目の頃に成る訳か。
あれからもう6年の月日が流れていると思うと早い様な遅い様な・・・・
毎年の様に演技陣の顔ぶれが変わる、役者出入りの激しさにも既に慣れたが、
無理からぬ事情も個々有ろうけれど、馴染みの顔を見なくなるのは淋しい物だ。
昔は舞台の後方から出て来た役者が客席の中を自由に動き回って、
客に手を差し伸べて語りかける様な演出も有ったりしたが、
両側の桟敷席まで人が鈴生りに成った現在ではそう云う演出も不可能だろう。
と云う訳で年を追う毎に盛況な様相を見せている水族館劇場だが、
今年も昨年以上に観客が増えて来た様な気がする、目出度い事だ。
今年は新機軸としてテント前の境内に「水族かんのん楽市」と題して、
地域の店の出店で小さな縁日の様な出店が並び、様々な品物を商っていた。
ますます地域に密着した感じで、「ハレ」の雰囲気が更に濃厚に成って面白い。
ただ単純に出店風な殺風景な店ばかりだったのが少々惜しまれる。
前庭に建てられた幕前芝居の為の小屋ほど凝る必要は無いだろうが、
空間の一つとしてその出店も、書き割り程度の演出なんかは欲しかった所だ。
幕間芝居の小屋と出店も含めて境内が舞台の様に成ってれば面白かったろう。
ついでに売り子の人が衣装に化粧なんかもしてると更にオツな感じである。
この際、昨今のコスプレ的な感覚も加味して境内を異空間に変えられたら最高だ。
と、まあ部外者の戯言はこの辺にして・・・・
今回の公演「メランコリア~死の舞踏」を観て感じたのは、
戯曲の内容と云い、舞台装置と云い、何時になくシンプルだったと云う事だ。
劇団が出しているペーパー「Fishbone」に書かれていた事なのだが、
「混沌としていた芝居の内容が或る時期から整理される様になり、
始めて見る人間にも取っ付き易くなった」と云う事が書かれていた。
まあ、特に今回の芝居の内容が解り易くなったとは思わない。
毎年書いている様に、水族館劇場の芝居の通奏低音となっているのは、
「歴史に語られる事の少ない、被差別民や虐げられた人々の記憶や場所を、
時間や歴史や場所を縫う様に現れ消える女を軸に語られる話」であり、
今回も難解な台詞と入り込んだ構造を持った話に成ってはいるのだが、
確かに妙な飛躍が無く、話に取り残される様な局面が少なくなった。
一時は舞台上が3層構造に成っていて、それぞれ違った時間軸の話だったりしたが、
今回はシンプルに港町とサナトリウムの廻り舞台が中心になり、
上方の可動舞台に蛇姫の祠などを配すると云うシンプルな構造に成っていた。
小屋芝居のギミックの限界に挑む様な舞台装置が毎回楽しみだったりしたのだが、
確かにギミックに凝り過ぎて話が難解に成る様では本末転倒ではある。
今回は舞台後方に幕も張らず、向うの景色が丸観えのミニマルさだったが、
それとて最後に重機によって釣り下げられる飛行船の為の物だったりする訳だし、
降り注ぎ吹き上がる水のカタストロフは相変わらずの大盤振る舞いだった、
これでシンプルと言われると他はどうなるんだ?と云う感じではある。
それでも以前と比べれば随分と整理されて来た様に感じるのは確かだろう。
そう云えば今回は久し振りに生きた動物が芝居に加わっていた。
澱んだ舞台上の碧のプールを泳ぐ白いアヒルちゃんである。
すぐにプールから上げられてひいちゃんに抱かれるが、流石に扱い易そうである。
そのひいちゃん役の増田千珠は今回も素晴らしい存在感と台詞回しだった。
それから何気にビジュアル系な佇まいの狩々博士と、
眠り男チェザーレ(しかし昭和だなぁ・・・)のコンビが面白かった。
幕前劇の時の自分の顔を片手に抱えた狩々博士の姿が結構良かったんだが、
ギミック上、劇中で見れなかったのは残念だった。
そしてデビュー公演では発声も台詞回しもままならなかった浅野雅英が、
今回「芥」と云う主役クラスで出演していたのは隔世の感が有った。
でもって今回或る意味一番活躍していたのが河童男の入方勇である。
御魂祭りの見世物小屋の太夫として舞台に立っていたのを見たのが最初だが、
小屋の暑さに負けて、だらけた演技を見せていたあの時とは打って変わって、
今回は客入れから、幕間の見世物、そして舞台上にと大活躍だった。
毎度お馴染みな山谷の玉ちゃんは身体を壊して今回はお休みしていたが、
その代り、また来歴の怪しそうなエキストラが舞台に登場していた。
普通の舞台で云えば異物と言える様な、そう云う存在に対して、
観ている客が妙に優しい所も、水族館劇場ならではと云う感じで面白い。
後は年々数が増えている子供たちに、トラウマと云うか初期的衝動を与える様な、
婀娜で妖艶な女優陣が充実してくれると言う事は無い。
さて水族館劇場20年の航跡を記念して、何と現在早稲田大学の演劇博物館にて、
「やぶれ船で流浪する水夫たち」と題して展覧会が開催中だそうだ。
まだ観に行っていないのだが、8月の3日までの公開で、
7月からのPart2では今公演の舞台美術も再現されると云う事で、必見だ。
そう云えば昨年10月に不忍ブックストリートのイベントの一環で、
大観音で天野行雄が「妖怪図書館」なる展示を行ったのだが、
そこの建物が去年の水族館劇場公演の幕前芝居に使われた写真館だった。
どう云う経緯であの写真館が使われたのかは解らないのだが、
非常に主旨に合った舞台装置に成っていて密かにニヤリとしたものだ。
今回の幕前芝居の商店も非常に良く出来た物だったし、
何らかのイベントが有る様なら是非とも展覧会後に使って欲しい物である・・・・
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