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2009.09.26

黒々とした「P」の紙ジャケ

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「俺のファンクをP-FUNKにしてくれよ!徹底的にファンクしたいんだ!」
                 「P-Funk(Wants To Get Funked Up)」より

先日ユニバーサルからパーラメントの紙ジャケがSHM-CDで再発された。
まあP-FUNK関係なら当然かなりの数をCDでも揃えている訳で、
特にギミックの有るジャケ等は無かった気がしたのでスルーしていたのだが、
何と今回は発売当時に付随していた特典関係がミニチュア化して同封されるらしい。
と成ると俄然、紙ジャケ好きの血が騒ぎだす訳で、早速特典付きの2枚をゲット!
しかし紙ジャケも特殊材料CDでの再発に成って値段が上がってから、
殆ど「一見さんお断り」な、更にマニア・オンリーの世界に成ったなぁ・・・

さて最初の1枚は問答無用の名作ライブ2枚組みの「アース・ツアー」だ。
この作品最初にCD化する際にアナログ2枚組みをCD一枚にする為、
アナログ最後の曲「Fantasy Is Reality」がカットされ流通していたのだが、
今回めでたくCDも2枚組みで再現されたお陰で見事復活を遂げた。
なので不完全版なCDを持っていた立場としては特典抜きでも是非ともな作品な訳だ。
で、その特典の方なのだが、SHM-CDシリーズに共通なアナログのレーベルカード、
そしてジョージ・クリントン扮する「Dr Funkenstein」のでっかいポスター、
そして最高に笑えるのがマザーシップに「Take Funk To Heaven In 77」が踊る、
アイロンプリント・シール(今回はタトゥー・シールに仕様変更)。
しかしアイロンプリントとはまた豪華な特典が付いて来ていたもんだ。
レコード会社の当時の気合の程も知れようと云うもの・・・・

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さてそのアルバムの内容に触れる前に、一体その「P-FUNK」とは何なのか?
どう云う種類の音楽でどう云う連中なのか?簡単に解説しよう。
「P-FUNK」と云うのは総帥ジョージ・クリントンを中心とした緩い集団である。
ジョージを中心としたカオスの渦の中に、有名無名問わず様々な人間が出入りし、
幾つかのグループを形成し、ジョージの提唱する「ファンク観」を実践する、
彼らの曲のタイトルから引用すれば「グルーヴの元の一つの国」と云う感じで有る。
その中心と成るのが「パーラメント」と「ファンカデリック」と云う2バンドだ。
P-FUNKの教義は殆どがこの二つのバンドの作品を中心に描かれていて、
パーラメントは重厚なコーラスとホーン隊が暴れるユニークなファンクを、
ファンカデリックはフリーキーでワイルドなギターが唸るブラック・ロックを、
それぞれ別のレーベルで展開しているが、内実は殆ど同じバンドであって、
ツアーなどはその時々の要素でもって名前を変えて行われていたらしい。
なので別けるよりも「P-FUNK」と云う一つの集団で考える方が理に適っている。
「P-FUNK」の語源については「Parlament-FUNKadelic」と云うのが有名だが、
他にも、純粋な(Pure)なFunkで「P-FUNK」と云う説も中々面白い。

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さてこの「アース・ツアー」は77年1月のLAとオークランドの公演から録られた、
「P-FUNK」と云う黒人芸能が、或る種宗教の域までに高められた記録である。
いや冗談では無く、聴いて貰えれば一発なんだが、これは正に宗教の熱狂なのだ。
この時期、公民権運動後に新たな黒人文化が胎動し始めている様な時期で、
キング牧師が提唱したキリスト教的教義に、若い黒人は物足りなさを感じていた。
そこで総帥のジョージとアルバムカバーも手掛けている作家のペドロ・ベルは、
神秘的な古代アフリカの精神体系を引用したアフリカ中心主義を土台に据え、
そこにホラー的な人物やスター・ウォーズ等のSF、コミックなどの要素を加え、
客に馴染み深い伝統的なゴスペル・スタイルで料理すると云う手法を取った。
それをライブで実現させる為に、キッスやストーンズ等のステージも手掛けた、
ジュールズ・フィッシャーと云うデザイナーに舞台のデザインを依頼して、
当時黒人音楽史上最高の27万5千ドルと云う予算をつぎ込み、
ステージの上にマザーシップが降立つと云う怒涛のステージを作り上げたのだ。

ラジオ局のDJに扮してジョージが客を温める1曲目からして客のノリが半端無い。
解放に向けてのメッセージ、単純だが重要な言葉の執拗な反復、手拍子、掛け声、
ファンクの名の元に一体に成る事を要求するコール&レスポンス、
そう云うゴスペルその物な演出の末、クライマックスにて歌われるゴスペルの名曲
「Swing Down,Sweet Chariot」(舞い降りろ、救いの馬車、私を乗せてくれ)、
しかしそこに舞い降りるのはマザーシップ(UFOの母船)なのだ!
UFOの着陸音をかき消すかの様な、その時の観客の凄まじい歓声たるや!
ドクター・ファンケンシュタインに扮してマザーシップへと下々を誘う、
「ファンカデリックの世界を司る、下劣にして完璧な総監督。比類なき創造性に溢れた冒涜語を身に付け、良心の咎めを感じている無宗教の腫瘍であり、まごう事なき宇宙の変態力学観察者」(ペドロ・ベル談)ジョージ・クリントンの指揮の元、
鉄壁のファンカネスを叩き出しつつ、異形の衣装に身を包んだ道化振りも最高な、
キャラの立ちまくった軍団が演出する最高な祭儀の記録である。
誰もがその場に居たかった、その眼で見たかったと思わせる最高のライブ盤だ。

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で、もう一枚が「アース・ツアー」の余波を駆って出されたこれまた名盤、
「ファンケンテレキーVSプラシーボ・シンドローム」である。
「ファンク欠乏症」のサー・ノウズとファンケンシュタインの闘争がテーマで、
ファンケンシュタインの持つバップ・ガンで撃たれたサー・ノウズが、
半裸に成って踊る様が、シングルジャケの表と裏に渡って展開されている。
このアルバムの特典は、長い鼻も特徴的なサー・ノウズのポスターと、
6ページに渡るOvertonLoydの手に拠るコミックブックが付いている。
コミックの表紙の部分がスター・ウォーズのイントロ風に成っている所が面白い。

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このアルバムは何と言ってもP-FUNKにとって始めてR&Bチャートのトップを取った、
バーニー・ウォーレルのシンセ・ベースがバキバキな「Flashlight」に尽きる。
今後ファンカデリックでもチャートの1位に曲を送り込む事に成る訳だが、
その先駆けと成ったシングル・ヒットも飛ばせる証の様なポップなナンバーだ。
ボートラで「FlashLight」の12inchバージョンも収録している。
それからライブでも活躍する1曲目の「BopGun」も忘れてはいけない名曲だ。
ちなみに「爆風スランプ」の元に成ったバンドの一つ「爆風銃」の名前は、
お解りの通りこの曲から取られていると云うのは有名な話しだ。

本稿の記述に関してリッキー・ヴィンセント著・宇井千史 訳による
「ファンク~人物、歴史そしてワンネス」を参考にさせていただきました。

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2009.09.19

フリーマガジン「メトロポリス」の面白さ

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都市部に住んでる方なら、フリーペーパーの一つ位は取って読んだ事が有るだろう。
「R25」等は有名だし、その種類も多岐に渡って充実している。
個人的に活字中毒者ゆえフリーペーパーが有るとつい手に取ってしまうクチだが、
結構定期的に読んでいるフリーペーパーに「メトロポリス」と云う雑誌が有る。
よく出掛けるタワーレコード等のCDショップに置かれていると云うのも有るが、
取り上げてる記事の視点の面白さも有って中々読ませる雑誌なのだ。

「メトロポリス」は在日外国人向けに発行されている英字フリーマガジンで、
東京・神奈川・千葉を中心とした首都圏で毎週3万部を発行している雑誌だ。
流石に国際都市の東京だけに在日外国人向けのフリーペーパーも多く、
英字のみならず、各国の言語で多数のフリーペーパーが出されている。
英字なら「TOKYO NOTICE BOARD」「TOKYO WEEKENDER」等も良く見掛けるが、
やはり部数と云い、記事の内容と云い「メトロポリス」が頭抜けている。

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Japanzine誌

ただ何年か前までの「メトロポリス」はどちらかと云うと硬い記事が多くて、
情報は豊富なのだが内容が余り読ませる物では無かった。
個人的には巻頭特集の面白さやサブカル界隈の情報が多く取り上げられていた、
「Japanzine」と云う雑誌が好きだったのだが、どうも終刊してしまったらしい。
(訂正:その後無事に刊行され続けているのを確認しました。平に御容赦あれ)
しかしその後「メトロポリス」もサブカル的な情報に力を入れる様に成り、
巻頭特集の着眼点など、日本人が読んでも楽しめる雑誌に成って来た。
日本人であるなら普通に思っている事でも他者から見た視点は様々な訳で、
外国人が見た東京と云う視点に、改めて気付かされる事が多々有る。

例えば記事冒頭に載せた女子高生が笑う「メトロポリス」の画像は、
外務省が採用した「ポップカルチャー発信使(通称「カワイイ大使」)」の一人、
原宿のなんちゃってJK服の店員で制服コーデの魔術師兼女優でも有る、
藤岡静香嬢を表紙に取り上げている号の画像である。
皆さん知ってました?外務省御用達の「カワイイ大使」とかって?
他にも最近笑った同誌の記事が日本のロックな女性を扱った「RiotGrrrls!」で、
「バッファロー・ドーター」とか「スーパー・ジャンキー・モンキー」、
「ロリータ18号」、更には「あふりらんぽ」辺りが取り上げれてて驚くが、
そのリストの最初に上げられた「RockBabes」の名前が「アキコ・ワダ!」。
うぅ~ん・・・解ってるなぁ・・・他には「ちあきなおみ」の名も有ったし・・・
かと思えば、同じく芸大で日本画を専攻した松井冬子同様の暗黒な作品のみならず、
ポップな現代アートも手掛ける鴻池朋子の特集も有ったりして侮れない。

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TV「シアワセ結婚相談所」を紹介した記事

情報誌ゆえに勿論各種の催し物情報にはぬかりは無い。
ライブから展覧会、スポーツ、バザーやマーケット、夏には花火情報も載る。
個人的にライブ情報のバンド名の下に載る一言紹介的な部分が面白くて、
例えば「真心ブラザース」だと「Long-Running Japanese Rock Band」だし、
「ガクト」だと「Pioneering Visual-Kei Singer」等と感心するほど上手い。
映画紹介のコーナーは基本的に洋画中心の構成で余り面白味は無いが、
毎週邦画を1本取り上げる「Eiga」と云うコーナーが有ったりする。
同様に日本で放映されているテレビ番組を取り上げる「Terebi」と云うのも有り、
中々微妙なセレクションで記事内容を読むのも楽しい。
個人的に興味深いのが「Classifieds」と云う掲示板的なコーナーで、
「売ります/買います」のコーナーや、スポーツや団体などのメンバー募集等、
在日外国人向けの様々な便宜や情報を募っているコーナーなのだが、
「Men Looking For Woman」「Woman Looking For Man」等と云う、
個人的な男女の出会いを扱ったコーナーが何気に面白い。
成る程、こう云う所にこう云う物が有るのか!と最初読んだ時には感心した物だ。
勿論「Gay&Lesbian」のコーナーやその他諸々の「出会い」を扱ったコーナー、
更には「Escorts」のコーナーも有ります・・・こんな所に広告出してたのね。

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他に目に付いた面白い記事と言えば何と「廃墟」を紹介するコーナー。
ちゃんと廃墟へのアクセスから廃墟に成った背景までしっかりと紹介している。

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そして日本人は普通に使っている物の、外国人には良く解らない「和製英語」、
その用語の意味と成り立ち、使い方までレクチャーしたコーナーは勉強に成る。
まあ昨今の若い奴が「ナイスミドル」とか「アングラ」を使うかは疑問が残る。
「外人の癖にオヤヂ」とか「死語外人」と言われない様に気を付けよう。

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そして中でも一番受けた記事が「Aso's Greatest Hits」と題されたコレ、
麻生(元)総理が会見の時に放った漢字の読み間違いを解説した記事である。
左からその漢字と読み、その意味、麻生総理の変読、その変読の解説と成っている。
「小学校、もしくは中学校で習う漢字」とか解説されている所が爆笑である。
「漢字の事だし外人には解らないだろう」等と思っていると危険だと云う証だ。
今度の宇宙人総理はこんな事が無い様に是非お願いしたもんだ、日本人として。

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2009.09.12

九月に降る風

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先日、台湾映画「九月に降る風」を観に行ってきた。

原題「九降風」のこの映画、実は観るのは今回が初めてでは無い。
今年の頭に台湾に行く前からヤン・ヤーチェ監督の「ORZボーイズ」、
そして例の「海角七号」と並んで、期待のニューウェーブとして紹介されていて、
更に「九降風」に於いては、香港映画界で最も才能溢れる男の一人である曾志偉が、
その脚本を気に入り共同プロデュースを手掛けていたりする訳で、
当然の如く現地でDVDを購入して既に鑑賞済みだった作品である。
とは云え、中国語字幕を乏しい語学力で理解するには限度が有る訳で、
晴れて日本語の字幕が付いたスクリーンで観て、
ようやくその細部まで味わう事が出来たと云う感じである。

それにしてもDVDを観た時に真っ先に思い浮かべたのが、台湾映画の名作の一つ、
今は亡きエドワード・ヤン監督の「牯嶺街少年殺人事件」だった訳だが、
この作品の監督、トム・リンが監督を志した切っ掛けがこの映画だったらしく、
実際に主人公達がビデオ・ルームで観る映画にこれを使いたかったそうだ。
(権利関係で使えなかったので侯孝賢監督の「恋恋風塵」が使われている)
パンフなどにもかの名作と比較した暉峻創三氏の映画評が載っていて、
あの作品が「九月降る風」に及ぼした影響に付いて触れられていて興味深い。
それにしても侯孝賢の「童年往時」や楊德昌の「牯嶺街少年殺人事件」で、
台湾映画に於けるニューウェーブの存在を認識したオールド・ファンには、
なんとも胸に迫るような話ではないだろうか?
現在では権利関係でDVD化が難しいらしい、あの四時間に渡る瑞々しい作品と、
確かに響き合う耀かしい青春の鼓動と、その終りを描いた美しい作品である。

話は到ってシンプルだ。
高校生活の怠惰な日々を、いつもつるんで過ごしている男達が七人。
煙草吸ってたむろしたり、ナンパしたり、夜の学校に忍び込んだり、
学校の教官に呼び出されたりと、誰でも過ごす無意味で濃密な刻を過ごしている。
しかし何時までも続くかのように感じていたそんな日々もやがて終わる時が来る。
些細な事から始まる人間関係の決裂、露わに成るそれぞれの思い、
そしてただ無邪気に笑いあっていたあの頃へは戻れない事をそれぞれが知る。
そんな誰もが懐かしさと悔恨と供に思い出す「あの頃」を描いた作品だ。
「牯嶺街少年殺人事件」を思い出すまでも無く、映画として普遍的なテーマで、
手垢が付きまくっている話だからこそ、難しいテーマでも有る訳だ。

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今作の時代背景は1996年から97年に掛けての時期に設定されているが、
その時期に台湾プロ野球界を騒がせた野球賭博事件が重要な要素に成っていて、
事件の推移が少年達の心模様と重なり合う様に描かれている。
他にも「やっぱそう云う風にも使ってたんだ!」と認識を新たにした、
かつては台湾の都市では何処でも見かけたレンタル・ビデオ・ルームとか、
以前自分も台湾に行った時は、美少女物とか舒淇の奴とか買った覚えが有る、
「OK写真集」の飯島愛版とか(これは監督の私物なんだろうか?)、
携帯普及以前のポケベルとか、時代を感じさせるアイテムが挿入されていて、
その辺はあの時代を生きた台湾人には涙無しでは観れない所だろう。
しかしそれ故に、他国の人間には感情移入し辛い部分が有ったりする訳で、
ラストの場面などは現地の人間なら「おぉぉ!」と成る場面なのだろうが、
そこに思い入れの無い日本人には「あ~本人なんだ?」ぐらいな感じである。
日本人的には張本とか清原が出て来る様な感じなんだろうかなぁ・・・・

最初にDVDで観た時は少年達のグループの関係性が良く掴めなかったのだが、
普通は同学年の仲間を扱う所、今作のグループは3学年に渡っている所が面白い。
しかも2年に居る一人は2回ダブりの最年長と云う様な細かい設定である。
部活等をやっている場合、日本でも上下間の有るグループは珍しく無いとは思うが、
台湾ではこう云う上下間の有るグループと云うのは普通なんだろうか?
そのグループのリーダーであるイケメンのイェン演じるリディアン・ヴォーンは、
英・中のハーフで、本当にトム・クルーズの若い頃そっくりで驚かされる。
洋画に出ても使える甘いマスクだし、今後人気出そうな存在である。
その親友で映画の語り手とも言える、タン役のチャン・チェは、
張震の若い頃を髣髴とさせる、台湾人俳優らしいナイーブな繊細さが実に良い。
以前紹介した「刺青」にも出ていたそうで、今度観返してみようか・・・・
その二人の間で揺れるイェンの彼女であるユン役のジェニファー・チュウは、
結構な美少女なのだが、役柄故か非常にエロティックな存在感が光っている。
他には例の2ダブの最年長、ヤオシン役のワン・ポーチェが確かな存在感で、
やりきれなさに暴発する演技の魂のこもり方が実に切なくて良い。
実際に彼は黎明や梁家輝などと共演する大作への出演も決まっているそうだ。
「ラスト・コーション」同様チョイ役だがクー・ユールンの顔が見れるのも嬉しい。
そして何と言ってもイェンの父親役で出演した曾志偉の存在感!
もうこの人の場合何も言わずともあの体型のシルエット見ただけで泣けるっつうか、
画面が締るっつうか、反則の様な存在感である。
監督が存在感が有り過ぎるので台詞を与えなかったと云うのにこれだから怖い。
しかしイケメンのイェンの親父が曾志偉っつうのは少々難が有る気もするが・・・

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ちなみにDVDには特典ディスクが付いていて、
現地版の予告やメイキング的なシークエンスが入っていて楽しめる。
この作品は素人同然の新人俳優たちから自然な演技を引き出す為に、
3ヶ月間の共同合宿を行って様々な演技プランを練ったらしく、
確か「藍色夏恋」も同様に合宿を行って撮影前に役に同化させていった作品で、
日本などでは中々そこまで時間を掛ける事は無いので実に羨ましい話である。
その時の映像が特典にも納められていて、或るシチュエーションを設定して、
その場面なら役柄の彼ならどう行動するか?等の即興が納められている。
他にもロケ地と成った学校の校内を巡った後にキャスト全員で屋上にて、
自分の役柄に成りきった上での感想を求める場面などが有って中々興味深い。
そして中でも一番問題なのが、まあカット・シーンの一部な訳だが、
「小湯小芸不能説的秘密」と題された、タンとユンの卒業式前夜の未公開場面。
正に「言えない秘密」な訳だが、これがもう残酷なまでに切ない場面で、
もうここまでタンの奴を打ちのめすか?と云う様な切ない場面なのである。
これが有ると確かに事件後からラストに向けての透明さが曇る様な感じはするので、
削っておいたのは正解だと思うが、この打ちのめされる苦さもまた有りだとは思う。
日本でDVDが出た時にこの特典が収録されるのかは解らないが、
若干鑑賞後の感想も変わる感じがする問題の有る未公開場面だ。

それにしても香港映画などでは英語タイトルそのままの酷い邦題が多いが、
吹き抜ける風が特産の米粉の乾燥に良いとされる新竹市特有の「九降風」を、
「九月に降る風」と云う邦題にしたセンスは実に素晴らしい。
「海角七号」や「ORZボーイズ」にも素晴らしい邦題を期待したいものだ。

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2009.09.05

不知夢 二

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こんな夢を見た

境内の杜の暗がりの下で、或る男と世間話に高じていた。
杜の上の高台には住宅が有るのだが、森閑とした静けさに話し声も潜め勝ちに成る。
話の合間に視線を逸らせた男の顔が止まったので、そちらを窺ってみれば、
稲荷杜に向かう細い道を、鮮やかな着物姿の女がゆったりと歩いていた。

「君、アレは例の・・・」
「ああ、その様だね。」

女の素性に気付いた男の問い掛けを、被せる様に肯定したのは、
その女を憎からず思っている心の表れだったのかも知れない。

「それにしても、まあ・・・・」

揶揄する様に呟く男の言い分も良く解る。
乱れた髪と云い、覚束無い足元と云い、この時間から酩酊しているのは確かだ。
愚にも付かない世間話など切り上げて、女の下に行きたいのは山々ながら、
男に足元を見られたくない思いも有って、しばし傍観者に徹していた。

「あぁ・・・危ないな。君、送ってやったらどうだい?」
「・・・そうだな、そうするか・・・じゃ、失敬。」

上手い具合に男にそう言われて、然も義務的な風を装ってその場を離れた。
女の下に近付いてみれば、着物も随分だらしなくはだけられていて、
真っ赤な唇の口角が上がった笑い方が、恰も童女の様にも狂女の様に視えた。
女の腰に手を伸ばすと、嫌々をする様に離れていったが、
直に身体をぶつける様に密着して来て、しどけなくしな垂れかかって来た。

稲荷杜から続く赤い鳥居が並んだ参道を、女の身体を支えながらゆっくりと歩く。
それにしてもこの参道は暗い。
普通より鳥居同士の間隔が短か過ぎるのが原因だろう。
真っ赤な蛇の体内に居る様な奇妙な感覚に襲われる。
そして廻した手から伝わって来る女の腰のむっちりとした体温と、
吐息に混じる酒の甘い香りが次第に感覚を狂わせて来る。

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気が付けばあっと言う間に鳥居の列を抜け、神社の外の裏道を歩いている。
日が高い筈なのに人っ子一人歩いていない。
それは良いのだが、道が拡がるにつれ女の酩酊の仕方が酷くなる。
腰を支えているのだが、上半身が張りを無くした様にぐねぐねと動く。
軟体動物の様に軸の定まらない身体は、酷く歩かせ辛くうんざりして来る。

その道の先はやや大きな車道と交わるのだが、
その一画にロープが張れていて、警察官が忙しく立ち働いていた。
どうも事故の現場らしい、白線の引かれた路面に未だ血が残っている。
早く通り過ぎようとしたのだが、女が急に現場を見てクスクスと笑い始めた。

「おい、よさないか!不謹慎だぞ。」
小声で女に注意するが、女の笑いはそれに連れて高く成って行く。
機嫌が悪そうにこちらを視る警官に恐縮しつつ女の笑いを止めさせようとするが、
更に高くなった笑い声と供に、女は腰の所からがっくりと背中の方に仰け反った。
仰け反ったまま笑い続ける女の襟元からバラバラと小物が路面に散らばる。
警察の張ったロープの内側まで転がった小物などを、
小声で警官に詫びながら拾いに行って、悪態を付きながら戻ってみると、
路肩に降ろしていた筈の女の姿がその場から消えていた。

女の行方を捜しながら、幾つかの路地を曲がる。
足元が覚束無いほど酩酊していた筈なのに、何時の間に消えてしまったのか?
女の持ち物だった手鏡に、現場で付いた血がこびり付いていて気分が悪く成った。

気が付けば足元の路面が妙に黄色い。
散った銀杏の葉が乾燥し踏まれて、粉の様に成った物が角の小道から続いている。
その道の先は、未だ黄色い銀杏の並木が続く、古い団地が建っていた。
吹きぬける風の音が耳に付くほど、不気味に静かな団地だったが、
然も有りなん、既に住む人の居ない廃団地だった。
窓や入り口には侵入を防ぐ様に板が打ち付けられているが、
ベランダにぶら下る金錆びた物干しや、千切れかかった掲示板の張り紙、
雑草に巻き取られた三輪車など、驚くほど生活の臭いが残った廃団地だった。
まるで人と供に急激に時間だけが進行して打ち捨てられたかの様な・・・・

これは写真に写して置かないといけない、と思い立ってカメラを取り出した。
フィルムを巻き上げようとして、何かが引っ掛かっていてフィルムが巻けない。
確かにまだフィルムが入っている筈だと思い、カメラのケース開いた。

中に詰まっていたのは粉の様に成った黄色い銀杏の枯葉だった・・・・

カメラの中の落ち葉を狂った様に掻き出していると、
不意に女の甲高い笑い声が廃団地の中に響き渡った。

団地の中を通りぬける風に乗って、高く高く木霊する様に響いている。

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