« 津原泰水「猿渡シリーズ」一気読み | トップページ | 個人的なサマーソング特集 »

2012.08.18

久し振りの紙ジャケ物三点

Kami08

久し振りに紙ジャケ物の紹介でもしようと思う。
基本紙ジャケ物のキモはギミックだと常々ここでも書いてきているが、
今回のはギミック物も有るが基本的にレアな再発と言う事で買った物だ。
最低でもゲートフォール位でもないと紙ジャケ化の意味は薄いと思うが、
そう云う点では今回紹介するアルバムはその辺もクリアしている。
レーベルは三枚ともマーキー/ベル・アンティークで、
丁寧な造りとマニア心をくすぐるセレクトが紙ジャケ物最後の砦と云う感じで、
問題はややお高い値段設定だったりするが、物が物だけに仕方ない所だろう。
正直これ何枚売れるんだろう?ってなアーティストばかりだし。
あと知らない内に出ていたりしてレコ屋でギョッと成る事が多かったりする。

まず最初の一枚はアルゼンチンを代表するバンド、ミアの「魔法の壷」。
余談だがその昔、雑誌だか書籍だかでミアや今回同時に再発された、
パブロ・エル・エンテラドール等のアルゼンチン・ロックの記事を読んで、
驚くと供に非常に暗澹とした気分に成ったのを覚えている。
イタリア物でさえまだ聴いていない未知のバンドが山ほど居ると云うのに、
南米にそんなシーンが有って、そんなバンド群が存在しているとは!
既にサグラド辺りは聴いていてブラジルのシーンの深遠さも理解していたが、
世界は広いと云うか奥深いと云うかその道の嶮しさに暗澹とした訳である。
さてミアは現在も当地の大御所ミュージシャンとして活躍している、
キーボード奏者リト・ヴィターレを中心としたバンドであり、
「魔法の壷」はその最終作であり代表作と言える三枚目のアルバムだ。
かなり凝った造りの変形ジャケットに成っていて、
ジャケの後ろが蓋の様に上に開く造りに成っており、
参加メンバーの写真や楽曲に於けるパーソネルの紹介などが読み取れる。
そして更に本作の発売記念コンサートの紹介状のミニチュアも封入されていて、
全くギミック有り紙ジャケ再発の鑑の如き仕様に嬉しくなる。

アルゼンチンの音楽と言えば即座に思い出すのは「タンゴ」と云う感じだが、
ミアのサウンドにそう云った要素を感じさせる物は殆ど無く、
辺境(失礼)のバンドに有り勝ちな妙バタバタとした泥臭さも感じられず、
言われなければ欧米のバンドと変わらない洗練されたサウンドを聴かせてくれる。
「魔法の壷」は残されたミアの三枚のアルバムで最もシンフォニック色が強く、
その象徴と言えるのが旧B面全部を使った17分の大曲「魔法の壷」だ。
冒頭から展開の速いインストパートが繰り出すスリリングな曲調に、
シンフォ好きならキタコレ!と唸る事間違いなしな素晴らしさだが、
フォーキーなパートから幻惑的なスキャット、挟み込まれる重厚なコーラス、
そして泣きのギターと展開しまくる中間部を経て、本作の中心人物である所の、
リト・ヴィターレのスペーシーな鍵盤ワークが混沌の中響き続けると云う、
長尺さを感じさせない或る種展開しっぱなしな構成が凄い。
ボートラとしてライブ音源を含む5曲が収録されているが、
曲調は旧A面収録曲に通じる様なアコースティックな小曲である。

Kami15

お次は現在は俳優として活躍するフランスのエマニュエル・ブーズが、
歌手だった時代に残した四枚の作品の内、2作目にあたる「迷宮の扉」。
この印象的なデザインのジャケットとその名は以前から知ってはいたが、
長らく復刻されず、その音を聴いたのは当然今回が初めてだ。
今回再発された三枚の作品では唯一のゲートフォール・ジャケ作品だが、
この見るからに癖の有りそうな暗示的でシアトリカルなジャケ写に、
内側はシュールなイラストをあしらったアルバムはそれに相応しい内容である。
アルバムは訥々したモノローグで始まり、NW風のダークなインストに流れ、
何処か同郷の有名バンド・アトールの「夢魔」を思い起こさせる様な、
オケをバックにフランス語でアジるカオティックな曲へと続く。
基本この作品は映画音楽家で知られるウィリアム・シェラーとの共作で、
ほぼ全編に渡りシェラーのオケが楽曲に深遠な彩りを加えている。
特にオケと楽曲のコンビネーションは旧B面の冒頭からの続く、
ストリングスがスピーディーに盛り上げ流麗なオケがバックを付け、
コーラスとの絡みが如何にもシアトリカルな「千の黄金の鍵を持つ男」、
そして力強いアコギのストロークとシルキーなオケが流れる上を、
シアトリカルながらロック的な熱さが何処かピーター・ハミル的でも有る、
「アングレーム」の二曲で極まって行く。
こう云うデカダンな暗黒のアンサンブルは如何にもフランス的な物だ。
フルートが歌う穏やかなイントロからクラシカルな弦が鳴りオペラの様に展開、
派手にでは無くクールに盛り上げる終曲の「僕ら子供は」も実に良い。
今回の再発に際して三曲のボートラが加えられているのも嬉しい。
時代的に或る種こう云う実験的な音はプログレの範疇に集約されたのだろうが、
現代的な解釈で言えば多分「オルタナ」と呼ばれる音に近いだろう。
まあ何にしろ期待通りの独特のサウンドに嬉しくなる一枚である。

Kami14

そして最後は同じくフランス出身ながら時代は八十年代に遡り、
既にプログレは過去の遺物とされていた時代に出された珠玉の一枚、
本作を残して消えてしまったステップ・アヘッドの再発盤だ。
彼らはフランス産ながらワールドワイドを目指し歌詞は英語で、
時代背景も有りサウンドの方も産業ロック的と言えるほど洗練されている。
故にユーロ・ロック特有のアクの強さを求める向きには不満だろうが、
純粋にバンドとしてのレベルと楽曲の魅力は実に素晴らしく、
現在だからこそ素直にそのレベルの高さを評価されるべき作品だし、
英国のポンプロック、そしてHRリバイバルであるNWOBHM辺りにも通じる、
あの時代にこう云う音を志向するバンドに共通のエッジも兼ね備えている。
一聴すれば誰でも感じる様に、ハイトーンのVoにはイエス辺りを、
叙情的に良く歌うギターはセバスチャン・ハーディー辺りを思い浮かべるが、
素晴らしいテクニックとセンスでもってそれら美点を兼ね備えつつも、
このバンドならではの個性が発揮出来なかった所が難点と云う感じだろうか。
アルバムは収録曲「ホワイト・レディ」にちなんだ神秘的な女性を描いた、
幻想的なイラストレーションのゲートフォール・ジャケに彩られていて、
雄大な風景と雲間から覗く朝日が収録されたサウンドを良く表している。
バンドのステージ姿を写した青一色のインナーバックも付属してるのが嬉しい。
アルバム収録曲三曲のライブ音源とシングル曲が二曲ボートラ収録で、
ライブではアルバム以上にワイルドでエッジの有るサウンドを聴かせてくれる。
幾つかのバンド同様に現代に甦ったら中々需要が高そうなバンドではあるが、
時代の徒花として記憶に留めて置く方が美しいのかも知れない・・・

|

« 津原泰水「猿渡シリーズ」一気読み | トップページ | 個人的なサマーソング特集 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/47596/55448258

この記事へのトラックバック一覧です: 久し振りの紙ジャケ物三点:

« 津原泰水「猿渡シリーズ」一気読み | トップページ | 個人的なサマーソング特集 »