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2013.02.02

ジョニ・ミッチェルの箱

Joni01

昨年の暮れ位から大手CD屋の店頭に積まれていたので見掛けた人も多かろう、
リプリーズ~アサイラム時代に残した10枚のスタジオ作をまとめた、
ジョニ・ミッチェルの「The Studio Albums 1968 - 1979」の箱である。
昨年の暮れから正月に掛けてゆっくりと聴き込んでいた。

最近は過去のバンドのアーカイヴ箱が多く出される様に成ったが、
流石に10枚組みと云うのは中でも相当のボリュームな訳で、
しかもそれが3千円以下と云う低価格な商品なんで驚かされる。
大概こう云う廉価な箱にはペラペラの紙ジャケと相場が決まっているので、
パッケージに「Replicated Gatefold Wallets 」と記されているのを見て、
「こんな安いのに見開きジャケなの?」と驚いたが、まあ何の事は無い、
両面に印刷された厚紙の内側をポケット状に折り込んだ様な物だった。
彼女のこの10枚のアナログが総て見開きジャケなのかは知らないのだが、
廉価盤にしては随分とアートワークに拘っているのは好感持てるし、
総てに於いて内側にリリックが綴られているのが彼女の作品らしくて良い。
更には「バラにおくる」と「ミンガス」の2枚に関しては、
リリックが内側のアートワークを邪魔しない様インナーまで付いている。
お陰で後ろ向きの全裸で岸壁に佇む彼女の姿も良く見える訳だ(笑)
ちなみにニール・ヤングのデビュー作と何処か共通する雰囲気でお馴染み、
彼女の郷里の風景を描いたらしい二枚目は見開きで観ると最高に美しい、
そんなジョニの自画像が印象的な「青春の光と影」を含めて、
実に7枚ものアルバムに彼女自身が描いたドローイングが使われている。
シンプルだが寓意的な七枚目、児童文学の挿絵を彷彿とさせる一枚目も良いが、
特に素晴らしいのは「ミンガス」のミンガス本人を描いたペイントだろう。
裏ジャケの車椅子に座った背中の哀愁具合など実に心撃たれる物がある。

Joni02

さてジョニ・ミッチェルと名の知れた云うアーティストに対して、
あなたはどう云う印象を持っているだろう?
リアルタイムで追い掛けて時代と供に聴き込んでいた人達はさて置き、
『ロックの教科書に必ずと言って良いほど名前と名盤が綴られている人だが、取りあえずその名盤を聴いた程度の人』と云うのが個人的な印象で、
実際この箱を買うまで聴いた事の有る作品は2枚だけと云う体たらくだ。
勿論彼女の周囲を取り囲むレジェンド達、デヴィッド・クロスビー、
グレアム・ナッシュ、ジェイムス・テイラー、ジャコ・パストリアス等々、
彼らとの逸話から逆に彼女の存在感を思い知らされた事は多いし、
数多くのアーティストにカバーされた楽曲群から、
彼女のソングライターとしての才能の確かさを思い知る事も多いが、
事、本人の作品に関しては触れる機会が少なかったと云う感じだ。
と云う訳でそんな人間にぴったりなのが今回の箱だったと云う事である。

収納された10枚の作品は録音順に辿ると、
「ジョニ・ミッチェル」「青春の光と影」「レディズ・オブ・キャニオン」
「ブルー」「バラにおくる」「コート・アンド・スパークス」「夏草の誘い」
「逃避行」「ドンファンのじゃじゃ馬娘」「ミンガス」と成っている。
まあ物凄く大まかに区切れば1stから「バラにおくる」までが、
フォークから出発して音創りを磨ぎ澄ますさせて行く時代。
そして以降がフュージョン系のテクニシャンなメンバーを配し、
アーティスト性と音楽性を更なる高みへと昇華させた時代、と云う感じか。
何処となく立ち位置が似ているローラ・ニーロと共通する所が面白い。

Joni04

驚かされたのがほぼアコギの伴奏のみで歌われる最初の2枚。
これが米国の(出身はカナダだが)フォーク歌手の作品と云うよりも、
明らかに英国・アイリッシュのフォークに近い感触の音なのだ。
元々彼女の血筋にはアイリッシュの血が交じっているらしいのだが、
ジュディ・コリンズやフェアポート・コンヴェンション等の英国勢が、
「チェルシーの朝」や「青春の光と影」を取り上げたのも肯ける話だ。
続く3枚目は「ウッドストック」「サークル・ゲーム」等の有名曲が多く、
特に「サークル・ゲーム」はバフィー・セント・メアリーがカバーした、
映画「いちご白書」の主題歌でご存知の方も多かろう。
所謂「ロックの教科書に必ず載っている名盤」が次作の「ブルー」。
ヒット曲は無いが、より深く心象風景を掘り下げた味わい深い名盤だ。
そんな「ブルー」の内省さを払拭する様な開放感に満ちたのが5枚目。
腕利きのミュージシャンをバックに配し「恋するラジオ」のヒットも出た。
全米二位のヒットを飛ばした6枚目は、バラエティに富んだ作風が印象的。
そして以降9作目までがジャズ/フュージョン期とも言える三部作。
ジャコ・パストリアス、ウェイン・ショーター、ラリー・カールトン等、
他にも豪華な面子が勢揃いし、新しい彼女の音世界に華を添える。
特にアナログ時代は2枚組みだった9作目はLPの片面を占める様な長尺曲や、
リズムが跳ねるパーカッシブな曲、フリーキーな曲も収めた意欲作だ。
まあジャズ/フュージョンと言っても中心と成るのは彼女の歌と世界観であり、
洗練感や実験感は強いが初期から続く歌心は健在である。
しかしそんな歌心を実験性の方が凌駕したかの様な作品が、
巨匠チャールズ・ミンガスとコラボした最後の10枚目「ミンガス」である。
流石にこれは聴いた瞬間にギョっとする程、衝撃的な内容の作品だ。
曲の合間に会話や効果音が挟まれ、歌もバックの演奏も驚く程フリーキーで、
ほぼ十年近くをかけここまでアーティスト性を深化させたのかと驚かされる。

まとめて聴く事でこんな風に一人のアーティストの進化を愉しめるのも、
こう云った箱の醍醐味だと言えるだろう。
「ジョニ・ミッチェル・・・聴いた事は有るんだけど・・・」
と云う自分と同じ様な貴方もこの機会に如何でしょう?

Joni03


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