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2014.10.25

台湾近代美術展巡り

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春から秋にかけて台湾の近代美術を紹介する展覧会が幾つか開かれた。
府中美術館で開催された「官展にみる近代美術」展。
松濤美術館で開催された「いま台湾‐台湾美術院の作家たち」展。
そして東京芸大美術館で開催された「台湾の近代美術」展の三つだ。

台湾の近代美術と云えば日本の統治下以降、それまでの伝統的な中華美術以外に、
西洋美術や日本画等がもたらされて始まったと言っていい訳で、
その萌芽期から受容期を経て近代に至る流れがその幾つかの展覧会で確認出来る。

台湾の近代美術に関して判りやすく紹介された本は余り無く、
雑誌や書籍に散発的に紹介された記事などで流れを追って行くのみだったし、
ましてやそれに特化した展覧会等と云うのも個人的に記憶に無かったので、
今回の様にまとめて作品が観れる機会が有ると云うのは嬉しかった。
台湾には何度も出掛けている物の美術館に足を伸ばす機会は殆ど無くて、
鶯歌に行くついでに三峽に有る「李梅樹紀念館」に行った事がある位。
(まあ流石に故宮博物院には何度か行ったが、それも随分昔の事・・・)
二二八事件に関して知った陳澄波は最初に意識した台湾出身の画家で、
現地に行った時に画集を買ってきたりしたのだが、
今回まとまって多くの作品を観る事が出来て感慨もひとしおであった。

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最初に開催されたのは5月に開催された府中美術館の「官展にみる近代美術」展。
「官展」は明治四十年から始まる、国の主催で行われる公募展の事だが、
(以下プレスリリースより)『この公設の公募展は、東京の文展(1907年)に続き、ソウル(朝鮮美展(ちょうせんびてん):1922-44年)、台北(台展(たいてん)・府展(ふてん):1927-43年)また長春(満洲国展(まんしゅうこくてん):1938-44年)でも設置開催され、多くの現地の作家が応募し、各国・各地域独自の美術が生まれる素地となりました。本展は、東アジアにひろがった公設の公募展の有り様を紹介し、公募展の始原を辿る日本初の展覧会となります。』
と云う訳で戦前に日本が占領していた各地で開催される官展に出品された、
それぞれの国の美意識が色濃く出た近代美術の名品が集まった展覧会だ。
こういった形で各国の近代美術がまとめられると云うのは実に興味深く、
企画意図も相まって非常に意義の有る展覧会だと言えるのではなかろうか?
安井曾太郎や藤島武二、梅原龍三郎等、日本を代表する近代美術の大家達が、
当地に出掛けて描いた作品も展示されており、それらが醸し出すエキゾチズムは、
奇しくも同時期ブリジストン美術館の企画展示で行われていた、
「描かれたチャイナドレス」展にも通じる物が有って面白かった。

呉梅嶺の日本画的手法で描かれながら何処か紅楼夢の挿絵を思わせる様な幽玄さ、
山岳民族の母子を描いた陳進の色彩の鮮やかさと画面の静謐感、
鮮やかな西洋画の色彩で彩られた李梅樹や李石樵の画面、
そして南国の空気その物の如き陳澄波の湧き上がるような躍動感。
点数的にはそれほどでも無かったが素晴らしい展示だった。
それから特筆すべきは総て繁体字とハングルが併記されている本展の図録。
図録解説以外にエッセイ等読み物の充実度が非常に高く資料的価値も高い。
以前も書いた様にまとまった読み物が少ないこの界隈だけに、
この内容で二千円と云う値段は非常に嬉しい一冊だった。

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お次は松涛美術館に於ける「いま台湾‐台湾美術院の作家たち」展。
こちらは先程の台湾近代美術の始祖たちの次の世代に当る作家たちが興した、
「台湾美術院」の作家たちによる現代の台湾美術を扱った展覧会だ。
松涛美術館は以前「台湾の女性日本画家生誕100年記念」と銘打って、
陳進の回顧展を開催する等、中々台湾美術に積極的な美術館だったりもする。
廖修平のグラフィカルな文字処理や林俊良のCGによるモダンなデザイン、
そして中国絵画の伝統をアップデートさせた林章湖の重厚な筆使い。
この後更に現代的な「今」の台湾のアートシーンへと繋がって行く訳だが、
台湾近代絵画の変転が垣間見れるようで中々に興味深い展示だった。
そうそう日本でもお馴染みなジュディ・オングも本店に出品しているのだが、
余技と言うには憚られる素晴らしい木版画に圧倒された事を記しておきたい。

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さて最後は東京芸大美術館で開催された「台湾の近代美術」展。
『20世紀前半、東京藝術大学の前身である東京美術学校では、台湾、中国大陸、韓国などからの留学生たちも学んでおり、特に油彩画の技術習得に励み、これらの学生たちが帰国後、西洋絵画芸術が東アジアに広まりました。今回の美術展では、当時の台湾からの留学生の主な作品約50点を展示し、帰国した留学生たちのその後の軌跡と台湾の近代美術の展開を紹介します』(プレスリリースより)
と云う訳で「留学生たちの青春群像」と云うサブタイトルが表している様に、
異国に留学してきた若者達の青春期の姿も合わせて描くと云う展覧会だ。

芸大では今も卒制に自画像を描くと云う伝統が残っているが、
日本に留学してきた台湾の若者達も若き日の肖像を残していて、
展覧会の始まりは彼らの様々な表情が様々な技法で迎えてくれる。
途中で多分台湾の方で制作されたであろう留学生達を紹介した映像が観れるが、
若き日の写真、そして美術誌等に紹介された日本語による記事、
そして時代に翻弄された彼らが辿った生涯が簡素に紹介されグッと来る。

展示作品は府中美術館の展示品とダブる物も結構有ったが、
やはり「台湾の近代美術」と名乗るだけ有って非常に充実した内容だ。
個人的に一番嬉しかったのがようやく王清埕の作品に出会えた事。
悲劇の彫塑家である彼の事を知ったのは、閃靈楽隊(ソニック)のフレディが
王清埕の生涯を演じた「南方紀事之浮世光影」と云う映画を観た事による。
あの映画の中でも日本に留学中の王清埕の生活が描かれていて印象深かったが、
今回ようやくかれの残した自画像と「服を脱ぐ少女」と云う彫塑像を拝見出来た。
そしてチラシの表紙にも成っている李石樵「市場の入り口」は、
大画面の中に喧騒と静寂を切り取ったが如き鮮烈さに圧倒されるし、
劉錦堂の「台湾遺民図」はシンメトリカルで呪術的構図にモダンさが光る。
そして台湾を訪れた事が有る人間なら誰でも何がしかの郷愁に捕われる、
郭柏川「台南祀典武廟」の陽光降り注ぐ廟の反り返った屋根や龍の装飾、
そして陳澄波が短い生涯で幾度も描いた故郷・嘉義の美しい風景。

しばらくはこんなにまとめて作品を観れる機会は無いだろうなぁ・・・
しかしこれほどの作品が無料で観れると云うのには何とも言えない物がある。
それから個人的にこちらの展覧会も図録が欲しかった所だが、
何と無料のパンフレットが配られていると云うのも何とも言えない所だ。
・・・いや勿論嬉しいんだが。

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